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ファミリーオフィスとは?専門家がわかりやすく解説

更新日:2023年11月28日

本稿ではファミリーオフィスの概要について包括的にご説明しております。詳細の説明は別記事に掲載しておりますので、各セクション末に掲載のリンク先より随時、お読みいただければ幸いです。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィスとは
  2. 2.ファミリーオフィスへの参加資格
  3. 3.ファミリーオフィスが対象とする資産
    1. 3.1.有形資産
    2. 3.2.無形資産
  4. 4.ファミリーオフィスの設立・運営に際して
    1. 4.1.設立
    2. 4.2.運営
  5. 5.ファミリーオフィスがもたらす恩恵
    1. 5.1.資産運用
    2. 5.2.事業承継
    3. 5.3.次世代の教育
    4. 5.4.一族の絆の強化
  6. 6.日本のファミリーオフィス


ファミリーオフィスとは

ファミリーオフィスとは、一族事業を所有する一族の永続化を実現するために、様々な富を管理・運用する組織です。ファミリーオフィスが対象とする富とは、現金預金・有価証券・不動産等の目に見える有形資産だけではありません。一族が大切にしている価値観や一族がこれからも担っていく使命、一族が目指すべきビジョン、一族間の絆、さらには一族が培ってきた経験、人脈などの目に見えない無形資産も対象にすることがファミリーオフィスの特長です。


ファミリーオフィスへの参加資格

ファミリーオフィスは永続化を目指す一族事業の所有者たる一族集団に必要なツールです。そのため、一族の代表者が単独でファミリーオフィスを設立するよりも、一族と一族事業を支えていく強い志を持つ一族メンバーが一致団結し、集団でファミリーオフィスを設立することに意味があります。


一族が永続化を目指す意義は、一族事業の企業価値と、一族の持つ有形・無形の資産価値とが支え合う関係を構築することで、両方を、螺旋を描くように成長させられる点にあります。ファミリービジネスは、事業の利益の極大化だけを求めるのではなく、利益分配により一族メンバー間の絆を強固にし、両者の関係が整合性を有する状態にすることが重要です。

別記事「ファミリーオフィスが必要な理由」もあわせてご覧ください。


ファミリーオフィスが対象とする資産

有形資産

ファミリーオフィスの重要な役割の1つに資産管理・資産運用があります。こうした役割は効果を認識しやすいため、どうしても着目されがちです。しかし、ファミリーオフィスが有する有形資産は単なる運用資産としての存在と役割を遥かに越えます。例えば、有形資産の代表的な存在である一族事業(=ファミリービジネス)そのものは、一族の精神的な拠り所となります。

また、一族の持つ有形資産は、一族事業の危機への備えや事業の更なる進化を目指した投資の源泉になり得ます。それ故、一族メンバーは配当や給与で得た資金をむやみに費消してはならず、一族の永続化に資する運用が求められているのです。

別記事「ファミリーオフィスの対象となる資産〈有形資産編〉」もあわせてご覧ください。


無形資産

上述のファミリービジネスの文脈における無形資産は、一族と一族事業に持続的成長をもたらします。人脈によるビジネスチャンスの創出や、一族メンバーが持つ経験を駆使して難しい局面を乗り超えることなどは、その典型例と言えるでしょう。


こうした無形資産は属人レベルでしか使用できず、世代を経るごとに無意識の内に失われてしまうことがまま見られます。したがって、こうした無形資産を後継世代へ承継するためには明確な仕組みの確立が不可欠であり、その役割を担う器がファミリーオフィスです。こうした管理・運用・承継する仕組みを持つことで、一族が持つ無形資産は、一族及び一族事業が持つ価値について、より強く差別化を図っていくための源泉になり得ます。

別記事「ファミリーオフィスの対象となる資産〈無形資産編〉」もあわせてご覧ください。


ファミリーオフィスの設立・運営に際して

設立

日本では有形資産を管理・運用する資産管理会社を設立するケースは多く見られます。こうした、一族が株主であり、一族事業の株式を持つ資産管理会社や持株会社に、無形資産の管理・運用を追加で担わせることにより、既にある会社をファミリーオフィスとして機能させることも検討可能です。


ファミリーオフィスの設立に際し最も重要なことは、ファミリーオフィスが一族全体の利益に資するためにも、公平性と透明性のある組織を創ることです。特定の一族メンバーによる私物化や暴走を避けると共に、形骸化を防ぎ、常に一族に高い付加価値を与える運営を心掛けなければなりません。

別記事「ファミリーオフィスを設立する目的と設立に向けた取り組みを紹介」もあわせてご覧ください。


運営

ファミリーオフィスの運営を継続的に行い、且つ常に目的を有した活発な活動を実践するには以下のポイントがあります。


(1)一族メンバーにもたらすメリットの共有

一族構成員がファミリーオフィスによってもたらされる金銭的メリットと精神的メリットを自覚することが重要であり、そのためには一族間の継続的なコミュニケーションが必要になります。


(2)関与する一族メンバーの選定

ファミリーオフィスに関与する方々は、関与することの意義を理解している一族メンバーである必要があります。一方で、残念ながらファミリーオフィスに関与することの意義を理解できないメンバーは必ず存在します。しかし、そのような方でもファミリーオフィスの価値を理解してもらうことが重要です。たとえ当初はファミリーオフィスの意義を理解できないまま参画していたとしても、ファミリーオフィスでの活動を通じてその意義に気付いていただくこともあります。


(3)適切なアドバイザーの活用

各分野の専門家をファミリーオフィスにアドバイザーとして加えることで、一族に寄り添った客観的な判断のもと、適時適切な選択と対策が効率的にできます。本業で多忙である一族メンバーにとっては、一層そのメリットは大きいでしょう。

別記事「ファミリーオフィスの運営」もあわせてご覧ください。


ファミリーオフィスがもたらす恩恵

資産運用

資産運用はファミリーオフィスの中核業務の1つであり、その特長は、一族集団を一つの単位として合同運用を行うことです。また、有形資産だけでなく、無形資産も資産運用の対象に加えることも特長として挙げられます。無形資産も加えることによって、一族で行う資産運用の目的・意義が確立し、有形資産の持続的な価値向上に資する中長期的な行動が期待できます。


具体的には、単に有形資産の運用益に期待する者だけが集まった集団は、運用がうまくいかないと、短期的に離散してしまう恐れがあります。
一方で、無形資産を加えた運用では、一族が有形資産を運用する共通の目的・意義を共有することができ、一過性の損益ではなく、長期的視点に基づいた目指すべきビジョンへ向けた運用ができます。


このように無形資産が長期的な有形資産の発展の源泉になり得る一方で、平時に無形資産の価値を実感することは困難です。そのため、有形資産が減少したときになって初めて、ようやく無形資産が今まで果たしてきた価値を知ることができた、というような場合が多いです。

別記事「ファミリーオフィスが行うべき資産運用」もあわせてご覧ください。


事業承継

これまでの日本のファミリービジネスにおける親族承継では、後継者となる子ども1人に経営を任せ、株式も集中させるのが通常の形でした。子供達の資産平等への配慮から後継世代の複数人に安易に株式を承継させることは株式の分散と混乱を引き起こし、経営を担う事業承継者の議決権行使力を弱め、一族自体の求心力を失う恐れがあると考えられていたからです。


しかし、1人に株式を集中させることに伴う財務的負担は、成長を続ける優良企業であるほど、世代を増すごとに大きくなり、その相続税の負担が法人・個人を合わせた財務体力を超えるケースも増加します。また、経営執行については、一族外の専門経営者に任せる方がより適切なケースも増えていくことにも備えなければなりません。


こうした背景を踏まえ、一族が集団統治する事業承継や、所有と経営の分離を考慮した事業承継が求められていると考えています。その際に、ファミリーオフィスを活用した、一族の総意に基づく意思決定が重要な役割を果たします。

別記事「ファミリーオフィスが事業承継で果たす役割」もあわせてご覧ください。


次世代の教育

永続化を目指す一族と一族事業において後継世代の人材育成こそが根幹です。後継世代が一般教養だけでなく、一族の価値観や一族事業の後継者に求められる業界知識・リーダーシップなどを学ぶことが求められます。次世代の教育によって、一族コミュニケーションのハブであるファミリーオフィスを通じて、一族の持つ無形資産を後継世代がより効率的且つ効果的に引き継ぐことを可能にします。


無形資産の種類と学ぶべき内容は、一族と一族事業の事情によりカスタマイズする必要があるため一族ごとに様々です。しかし、一族教育の全体像をプランニングすることは、全ての一族に共通する要素であるべきです。その1つの手法として、人材の育成と成長に関するフレームワーク「9段階の教育プロセス」が挙げられます。

別記事「ファミリーオフィスが一族の教育にもたらす効果」もあわせてご覧ください。


一族の絆の強化

個々に性質の異なる一族の有形・無形の資産を無駄なく扱うには、何よりも担い手である一族に一体性(①共通の価値観、②共通のミッション、③互いに支え合うことの覚悟等)が求められます。

ファミリーオフィスでは、一族事業の経営者や一族の当主たる人物が運営の最終責任者を担うケースが多いのですが、こうした人物は自分の意見で物事を判断するのではなく、適切な一族会議体で一族の代表としてその決定事項を執行するに過ぎず、それこそが一族の総意を表象する理想的な姿なのです。


こうした一族のリーダーが担う役割を本来あるべき形で発揮させるには、他の一族メンバーが消極的な姿勢で参加してはなりません。消極的な参画では、一族のリーダーが一族の総意を纏めることができず、さらに言えば、リーダーの暴走や誤った判断を防ぎ、互いに支え合う同志としてリーダーへの健全な牽制機能を発揮できない恐れもあります。

別記事「ファミリーオフィスの活用例」もあわせてご覧ください。



日本のファミリーオフィス

最後に、日本におけるファミリーオフィスの実態についてご紹介します。結論を申し上げれば、日本ではファミリーオフィスが未だ普及しておらず、ごく一部の富裕層が取り入れているのみであるというのが現状です。


日本でファミリーオフィスの概念が広まらず、利用されてこなかった原因として、下記4つの仮説が挙げられます。

(1)欧米に比べて資産規模が大きくない

(2)経済環境に基づく集団統治の意識の低さ

(3)雇用制度に基づく資産運用ニーズの低さ

(4)スチュワードシップに対する意識の低さ

別記事「日本におけるファミリーオフィスの実態」もあわせてご覧ください。


一族及び一族事業の持続的な成長には、強い絆で結ばれた一族と一族の価値を反映した強い一族事業をつくり、両者の協力関係を築くことが重要です。ファミリーオフィスは単に有形資産を後継世代に遺すための器でなく、今まで属人的で重視されてこなかった一族の無形資産も受け継がせることを可能にするのです。

【参考資料】ファミリーオフィスについて

下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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