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ファミリーオフィスが一族の教育にもたらす効果

ファミリーオフィスの主目的は、ファミリービジネス(=一族事業)とそれを所有する一族の持つ富を永続化させることです。しかし、ファミリーオフィスを設立することで他にも様々な恩恵が得られます。

今回はファミリーオフィスを設立することによってもたらされる副次的なメリットの中で、教育に焦点を当ててご説明致します。​​​​​​​

【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィスに求められる要素
  2. 2.9段階の教育プロセス


ファミリーオフィスに求められる要素

永続化を目指す一族と一族事業において後継世代の人材育成こそが根幹です。後継世代が一般教養だけでなく、一族の理念の価値観や一族事業の後継者に求められる業界知識・リーダーシップなどを学ぶことが求められます。一族のコミュニケーションのハブであるファミリーオフィスを通じて、一族の持つノウハウや人脈、社会からの信頼・評判などの無形資産を後継世代がより効率的且つ効果的に引き継ぐことを可能にします。

しかし、こうした一族の持つ無形資産は一定の仕組みに基づいた管理・運用をしなければ、自然体では世代を経るごとに逓減していく恐れがあり、また、無形資産の種別によっては当世代限りになってしまうことも想定されます。当世代が蓄積した貴重な無形資産は、一族全体の未来の成長に大いに貢献するにも拘らず、特定の個人レベルに留まっている一族が、現状のファミリービジネスにおいてはほとんどではないでしょうか

以上のような一族の持つ無形資産を洗い出し、一族の共通の財産として管理・運用を担う組織がファミリーオフィスなのです。無形資産の種類及び学ぶべき内容は一族と一族事業の事情によりカスタマイズするので一族ごとに様々です。しかし、一族教育の全体像をプランニングすることは、全ての一族に共通する要素です。その1つの手法として、人材の育成と成長に関するフレームワークである「9段階の教育プロセス」をご紹介致します。


9段階の教育プロセス

「9段階の教育プロセス」の背景には、教育は一朝一夕ではなく、生涯に渡って、多次元での学びが必要である考えがあります。

後継世代は事業承継者として、最終的にどのような知識やスキル、人間力などを身に付けたいのか、また、年齢や一族事業への関与度を考慮した上で、どの程度のレベルでそれぞれの学びを習得するべきか判断することが求められています。したがって、多様な学びの機会を適時・適切に提供しなければならず、その際に有効となるのが下表の「9段階の教育プロセス」です。

(図表)9段階の教育プロセス

図表の通り、9段階の年代において、4領域における教育分野を適切に設計します(図表で〇を付けたものが各年代において推奨される学びの領域であり、特に◎を付けた箇所は、比較的に重きを置いて取組むべきステージを表しています)。

尚、当世代は教育を提供するだけでなく、その成果を随時検証して、後継世代が事業承継者としての能力や気概をどれ程持っているのか見極めなければなりません。そのプロセスには透明性と公平性が担保されなければならないため、ファミリーオフィスによる客観的な体制整備が求められています

ご参考までに「9段階の教育プロセス」に基づいた、一連の教育プロセスをご紹介致します。

小学校、中学校、高校、大学と基礎教育を経た後、他社へ正規従業員として、3年以上就業すること(=他社就業時期)までが、一族事業に入社する前の基礎段階です。こうした一族事業に入る前の段階には、基礎教育の他に、一族と一族事業に関して、歴史や一族の理念を体系的に学ぶことが求められています。こうした学びにおいて、一族事業のCEOや退いた年長者及び引退した非一族の経営執行者の役割が重要となります。

また、社会貢献活動を通じてリーダーシップを学ぶことも推奨されます。特に若い世代では、一族事業に携わるだけでは得られないリーダーシップを学ぶ貴重な経験となります。

リーダーとして経営を担うには多様な人材と接しなければなりません。その中には社会的に必ずしも恵まれた環境に無い方々も当然含まれています。こうした人たちをどのような形で支援をすれば、その方々の本来の役割を果たせることができるのか、社会貢献活動を通じて徐々に身につけていくことが後継世代に求められています。その結果、後継世代の中から地域社会に貢献する企業を導くリーダーを生み出すことができるのです。

リーダーにはフォロワーが絶対条件として必要になります。経営関与に必要な業界固有の知識を身に付けるだけでなく、フォロワーを自然と惹きつけるリーダーの持つ人間力の養成が社会人になってからの人材育成では重要なテーマとなります。これは単なる業界知識だけでは補えない経営人材として学ばなければならない不可欠な要素です。

こうした体系的な学びを成長と共に経てから一族事業会社に入社することが重要です。一族事業会社では創業一族の一員ではなく、1人の社員として正当な評価を受けた上で経営幹部に昇格させます。そして、経営人材として相応しいスキル・経験を蓄積してから一族の株主取締役に選ばれ、最終的に次の経営執行責任を担う事業承継者の候補者に決定されます。

こうした9段階の教育プロセスは1つのモデルであり、もちろん絶対的なものではありません。基本的な要素は図表の4領域で大部分を補っているものの、一族及び事業特有の事情により別途検討を要する場合もあります。


以上のような仕組みを、一族を熟知するファミリーオフィスがカスタム化して、改善を続けながら運用していくことが一族及び一族事業の持続的成長を促進します。留意していただきたいのは、こうしたプロセスは事業承継者になる後継世代だけに限られず、全ての後継世代に適用できることです。仮に事業承継者にならないメンバーでも、創業一族の一員として、一族事業への影響力はある程度持ち続けています。そうしたメンバーは上述の教育プランから必要な要素を取捨選択して学ぶことが重要であり、結果として間接的に一族と一族事事業の永続化に寄与することになります。​​​​​​​

【参考資料】ファミリーオフィスについて
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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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