ファミリーオフィスが事業承継で果たす役割

ファミリービジネス(=一族事業)が事業承継を迎えたときの選択肢は、親族承継、従業員(役員)承継、M&A、廃業に大別されます。その中で、創業一族が事業を所持し続けるには親族承継が唯一の方法となります。

これまでの日本のファミリービジネスにおける親族承継では、後継者となる子ども1人に経営を任せ、株式も集中させるのが通常の形でした。兄弟間の資産平等への配慮から後継世代の複数人が安易に株式を承継させることは株式の分散と混乱を引き起こし、経営を担う事業承継者の議決権行使力を弱め、一族自体の求心力を失う恐れがあると考えられていたからです。

しかし、1人に株式を集中させることに伴う財務的負担は、有力企業であればあるほど、世代を増すごとに純資産規模が大きくなり、その相続税の負担は、個人の財務体力を超えるケースも増加しています。また、経営執行については、一族外の専門経営者に任せる方がより適切なケースが増えていくことへも備えなければなりません。

こうしたファミリービジネスを取り巻く新たな経営環境を踏まえ、今回は、日本のファミリービジネスで求められている新たな事業承継ニーズへの対応と、ファミリーオフィスが果たす役割に関してご説明してまいります。

【参考資料】

ファミリーオフィスについて
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目次[非表示]

  1. 1.今後求められる事業承継の形
    1. 1.1.①一族が集団統治する事業承継
    2. 1.2.②所有と経営の分離を考慮した事業承継
  2. 2.ファミリーオフィスの役割


今後求められる事業承継の形

経営上及び一族の管理上、従来型事業承継モデルを支障なく活用できる社内外の環境が整備されているのであれば、これを採用すべきです(従来型事業承継の詳細に関しては、別記事「事業承継における家族憲章の活用」もご一読ください)。

  事業承継における家族憲章の活用 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


しかし、そのモデルでは何かしらの実行上の支障(自己の資金調達の限界、経営能力の限界、財務的な限界など)が予想される場合は、下記のような代替的な承継方式の検討も必要となるでしょう。

①一族が集団統治する事業承継

一族と一族事業を支える強い意思を持つ一族メンバー全員に株式を承継させ、一族が集団で統治することが1つの有力な手段として挙げられます。この手法では、1人に株式を集中させて承継させる場合より、一族の複数メンバーが株式を承継するため、承継に係る1人あたりのコスト負担を軽減させることができます

また、一族内の多様な考えを事業に反映させ、複数の一族株主で企業ガバナンスを担うことで、事業承継者による経営の私物化や経営の暴走を抑止することもできます。


②所有と経営の分離を考慮した事業承継

後継世代が一族事業とは別の事業に就き、一族事業を承継する意思がない場合や、その事業承継者の能力が不十分の場合、理論的には事業の売却・廃業も選択肢となります。

しかし、事業は一旦売却すると、孫の世代で優秀な後継者候補が出現しても、一族での事業承継の可能性は無くなり、拙速な事業売却を後悔することになります。一族と一族事業が互いに支え合うからこそ、一族は一族事業から様々な恩恵を継続的に受けることができます。

それ故、次の後継者が今、一族内にいないからといって、軽率に株式を現金化せず、むしろ慎重に代替案を検討すべきです。その1つが、株式は一族が所有し続ける一方、第3者の経営者(=プロ経営者)に経営を任せ、その経営能力を監視できる企業ガバナンスを構築する道です。

もちろん、一族事業に市場での競争力が無く、将来に向けて改善の可能性がない場合や、期待される利益を上回る承継コスト負担がある場合では、M&Aや廃業がより合理的となるでしょう。

上述の2つの選択肢は、ファミリービジネスを一族が株主として支え続けるための方策です。しかし、これらを実現するには、事前の一族での協議や集団統治の仕組みが必要となります。

例えば、上述①の方法で一族全員の株式を集約すれば、集団では筆頭株主であっても、実際の株式議決権行使にあたって、個々の株主の考え方の相違から一族の離散リスクや筆頭株主の濫用リスクへの対応(=少数株主保護の要請)などが必要になると考えられます。

また、上述②の方法で創業一族の意思・価値観をプロ経営者に継がせ、経営に反映させることは頭で考えている程容易ではなく、一族のアイデンティティの希薄化や、プロ経営者の客観的な管理・評価をした上での、適切な報酬で報いることは大変な困難を伴う作業となります。


ファミリーオフィスの役割

上記の様々なリスクへの1つの対応策として、ファミリーオフィスの設立とその継続的運営が挙げられます。会社法上、要請されている株主総会や取締役会だけで一族が足並みを揃えることは困難です。また、一族の価値を十分に考慮した意思決定を企業の経営執行者が実施できているか否か、経営執行に携わらない一族株主が判断することも容易ではありません。

ファミリーオフィスは、一族が定期的に集まる場(=一族会議体)を設け、一族と一族事業の近況を一族メンバー全員が共有できるような仕組みを設計し、運営していきます。特に、一族事業の重要な意思決定を行う前には、一族が集まって一族の意向を事前に取締役会に報告することが推奨されます。そして、取締役会の意思決定は、その都度、一族会議体に報告されます。

また、ファミリーオフィスは、一族が持つ有形資産と無形資産の管理・運用も担います。具体的には、ファミリーオフィスは、一族と一族事業の活動の成果を財産評価できる立場にいるので、一族及び一族メンバー個々人の持つノウハウや人脈、価値観などの一族の持つ無形資産の情報も活用して、一族が一族事業を支援する役割を支えることができます。意思決定の責務を直接に担う一族メンバーが一族の代表者として相応しい行動を取っているか、ファミリーオフィスが客観的な判断軸に基づいて、適切な一族会議体で共有する仕組みも提供できます。

しかし、こうした判断軸は絶対的及び硬直的なものでなく、一族と一族事業の現況に合ったものになるよう、常に当世代による修正が可能なものとして運用されます。このように、株主が複数の一族メンバーの場合や、経営執行がプロ経営者の場合であっても、一族全体が一体性を持って整合的な意思決定ができる仕組みを支えることがファミリーオフィスのミッションなのです


今後も経営環境が目まぐるしく変化する中、一族と一族事業の持続的成長を実現するためにも、常に柔軟に経営革新を継続することが求められています。ファミリーオフィスを活用することで、一族の絆を強め、上述の多様な事業承継プランに対応できる一族間のコミュニケーションを整備することが急務となるでしょう。

【参考資料】​​​​​​​

ファミリーオフィスについて
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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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