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ファミリーオフィスの対象となる資産:有形資産編

欧米を中心に注目を集め、最近では日本でも話題になり始めているファミリーオフィス。こうしたファミリーオフィスが対象とする富を一言でいえば、一族の有形資産・無形資産を共に含む「広義の富」です。この「広義の富」の維持・増加により一族と一族事業の永続化を実現することができます。

留意していただきたいのは、有形資産及び無形資産とは、財務諸表上の科目や法律上で定められている性質とは少し異なります。ここでは、有形資産を目に見える資産、無形資産を目に見えない資産と捉えて下されば、読者の皆様にはより直感的にご理解いただけると思います

今回は「広義の富」の内、有形資産に焦点を当て、その性質を有形資産が果たす3つの役割を通じてご説明致します。

目次[非表示]

  1. 1.有形資産の役割①:一族の精神的な拠り所
  2. 2.有形資産の役割②:生活を支える経済基盤
  3. 3.有形資産の役割③:危機への備えや一族事業の進化を目指した投資の源泉


有形資産の役割①:一族の精神的な拠り所

一族が所有する有形資産は、単に運用資産というような預金や有価証券の塊ではありません。特に、有形資産として代表的な存在である一族事業(=ファミリービジネス)そのものは、地域や業界の中で多くのステークホルダーを抱えています。

それ故、地域経済を支える名士の一族として周りから評価されることが常態であり、一族事業や一族メンバーの地域経済における有機的な活動が日常的に求められます。一族事業の創業家であることにより、目に見える様々な恩恵を受けつつ、一族のアイデンティティの源を創り上げる精神面での効果も有形資産を通じた社会貢献活動の特徴です

例えば、「あの人は○○家の一族だから」、「あの人は□□事業の創業家だから」などと社会から評価されることで、一族メンバーは一族の一員であることに誇りを持ちます。同時に、周囲の人々から尊敬されることを通じて、創業地における代表的経済人として重要な地域社会に責務を果たすインセンティブに繋がります。

こうした地域社会への具体的な行動に結果が伴うと、さらに周囲から感謝され、さらなる地域還元を行うというダイナミックな好循環を生み出していきます。このような一族や一族事業という集合体の創り出した無形の価値を一族の「社会関係資本」と定義することもできるでしょう。


有形資産の役割②:生活を支える経済基盤

一族のもつ有形資産には上記の精神面での役割に加えて、個々人の生活を支えるという経済基盤の提供という重要な役割があります。その中には、一族事業への就業の機会や株主として配当を受ける権利も当然に含まれます。

さらに、(家族憲章等を併せて定めることで)世帯として臨時に必要な資金を一族事業から借り入れる一族間の互助的な仕組みの実現もファミリービジネスならではの強みです。

一族と一族事業の永続化を目標に、こうした特性の維持・強化を一貫して続けていけば、関与する一族メンバーが世代を経るごとに(通常は)増えていく中で、一族メンバー1人あたりへの経済面で機能する一族事業の力も維持・強化することが可能になります


有形資産の役割③:危機への備えや一族事業の進化を目指した投資の源泉

一般的に企業における過去の利益は、企業のバランスシートに利益剰余金として計上され、累積していきます。それが現金や有価証券、不動産などの個別のアセットクラスとして運用され、バランスシートで総括的に表象されているのは皆様も周知のことだと思います。

また、ファミリービジネスの資金調達においては、株主の増資引受け能力に制約を受けます。一族のメンバー個人が引受け、株主構成を大きく変更しない傾向が強いからです。この結果、長寿のファミリービジネスは利益準備金の増加によって可能となる借入増を行い、銀行が求める財務諸比率を維持することを目指します。

また、経営不振時に、銀行から経営に介入されたくないことから非ファミリービジネスよりも自己資本を厚くし、極端な場合、実質無借金経営である場合も多いと言われています。市場が成熟化し、技術革新も無く、設備投資ニーズが小さい業界の老舗企業などでは、特にその傾向が強いことが通説です。

しかし、時代変革や事業基盤を支える技術が非連続に代わる局面では、多額の資金調達が必要になるケースがあります。このような一族事業の経営環境が大きく変わり、事業戦略に大きな方向転換を要するとき、一族メンバーが個人としても着実に資産形成を進めること(=有形資産の蓄積)で、一族事業の最後の貸し手としての役割を担うことができます。

したがって、一族メンバーは配当や給与で得た金額をむやみやたらに使ってはなりません。適切に自ら貯蓄・運用し、ひとたび一族事業が存続の危機を迎えたときなど、一族事業の年間営業キャッシュフローを遥かに超える資金が必要となる場合において、一族事業への最後の貸し手として資金調達の援助を行います。その結果、財務面から一族と一族事業の永続化の仕組みを途切らすことのない極めて重要な効果をもたらすことができます。


ファミリーオフィスの対象となる有形資産は、効果を識別しやすい運用面にどうしても目が行きがちです。しかし、それは氷山の一角に過ぎません。一族の有形資産は一族の持つ無形資産の質と量によって活かされるのです。

この有形資産と無形資産の相乗効果こそ、代々続く有力なファミリービジネスの持つ「広義の富」の形成の秘訣なのです。反対に、有形資産の金銭的評価が変わらなくても、ステークホルダーをはじめとした他者からの評価が悪い(=無形資産の評価が低い)場合では、「広義の富」は減少することも大いに有り得ます

このように、一族の有形資産は無形資産と密接に関わりがあり、有形資産の源泉は、実は一族の無形資産にあるのです。無形資産に関する詳細の説明は「ファミリーオフィスの対象となる資産:無形資産編」を併せてお読み下さい(当該記事をお読みになって、改めて本稿を読み返すこともお薦めします)。

  ファミリーオフィスの対象となる資産「無形資産編」 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


有形資産と無形資産の両者を知っていただくことで、初めてファミリーオフィスの存在意義を腹落ちできると私共は考えております。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等