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ファミリーオフィスの運営

ファミリーオフィスの運営は一族の持つ「広義の富(=有形資産+無形資産)」をどのように活用していくかが鍵です。一族の持つ有形資産及び無形資産に関して、詳細を知りたい方は、下記リンク先より別ブログをご覧ください。

  ファミリーオフィスの対象となる資産「有形資産編」 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


  ファミリーオフィスの対象となる資産「無形資産編」 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


今回は、ファミリーオフィスの持つ機能を十分に発揮させ、円滑な運営をするために必要なことに関してご説明致します。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィス運営の目的は何か
  2. 2.番頭とファミリーオフィスの違い
  3. 3.運営において取組むべきこと
    1. 3.1.一族メンバーにもたらすメリットの共有
    2. 3.2.関与する一族メンバーの選定
    3. 3.3.適切なアドバイザーの活用


ファミリーオフィス運営の目的は何か

ファミリーオフィスの運営において、最も重要なことは一族と一族事業の目的を定め、その目的を常に意識した行動を取り続けることです。こうした一族の一貫した行動を実現するためにも、短期と中長期の目標を一族内での討議を経て決定し、両者を着実に達成していく一族の強い意志と運営体制の整備が不可欠となります。

短期の目標の代表例は、一族の資金計画に整合性のある資産運用のパフォーマンス維持・向上や一族の集まり(=一族会議体)の企画・運営などが挙げられます。一方、中長期の目標は、一族の持つ「広義の富」の永続化を通じた、一族と一族事業が互いに支え合うことによって初めて可能となる一族及び一族事業の持続的成長となります。

両者の目標を達成するには、一族メンバー間の継続的なコミュニケーションが前提です。その役割をファミリーオフィス以外でも担える場合では、ファミリーオフィスを設計することは不要です。

しかし、世代を経るごとに通常、一族関係者は増えるものの、日常的に密に連絡を取るメンバーは限定され、一族の絆を強める十分なコミュニケーションを取る機会の確保が困難となることが想定されます。さらに、一族の持つ現預金や株式、不動産など(=有形資産)の価値は目に見えていつでも把握できる一方で、一族の個々人が持つ知識や人脈、能力など(=無形資産)は必ずしも一族内で十分に共有することは容易ではありません。

一族の一体性を維持・強化するために求められる一族間でのコミュニケーションの在り方を、組織的な仕組みではなく、一族メンバーの各々に単に任せても、「広義の富」の持続的成長を図ることは実効性がないとご理解いただけるかと思います。それ故、ファミリーオフィスの活用を通じて、一族及び一族事業の活動とその成果を定期的に報告する場を一族に提供し、一族メンバー間で情報の非対称性が生じないようにする取組みが必要となり、それこそファミリーオフィスの核心的役割となるのです。


番頭とファミリーオフィスの違い

ファミリーオフィスが担う役割に関して、ファミリーオフィス以外の機能で補うことは困難です。その中で最も近しい役割を果たせるのが番頭(=一族の資産管理人)でしょう。番頭とファミリーオフィスの違いは下表に掲載した通りです。


(図表)番頭とファミリーオフィスの違い

両者には様々な相違点がありますが、最大の違いは、ファミリーオフィスの運営主体は法人であり、番頭は個人である点です。個人である番頭は、意思決定のスピードが速く、関係者が少ないため柔軟な対応も難なくできます。しかし、引退や病気で番頭が入れ替わると、今までに培ってきたノウハウが属人的であるため、後継者に十分に伝えられないリスクは非常に高くなります。仮にノウハウを100%引き継げたとしても、変化する競争的外部環境に適合しながら、より高いノウハウを内製化することは困難であり、こうしたリスクは世代を経る頃に高まります。結果として、常に綱渡りの状態が続きます。

それに対して、ファミリーオフィスは、一族と一族事業を支える意思のある一族全員が関与するため、手続きや意思決定のスピードは個人である番頭に比べてやや劣るかもしれません。しかし、当事者全員の合意に従い、事業経営や資産管理・運用ができるファミリーオフィスは非常に強い一族の求心力を持っています。また、時代を経るごとに一族のメンバー構成が変わる際においても、ノウハウは法人という永続性のある組織に蓄積され続け、一定の規律のもと、運営も滞りなく何世代にも渡って維持することが可能となります。さらに、運営手法や組織体制が現状の経営環境や事業状況に合わない事態が将来生じたとしても、定めたルールを修正するオプションも存在します。

したがって、当世代は後継世代のために一族と一族事業が成長するためのきっかけを提供するだけに過ぎません。当世代が遺した一定のルールを参考にしながら、後継世代自身がその採否を決めるのです。その意味で、ファミリーオフィスは法人でありながら、関与する一族全員が制度設計及び運営方針を決定します。もちろん、実務的なファミリーオフィスの運営は、非一族の専門スタッフに委託することもできます。


運営において取組むべきこと

ファミリーオフィスの運営を継続的に行い、且つ、常に目的意識を持って形骸化を防ぐために取組むべきことについて、代表例を3つご紹介致します。


一族メンバーにもたらすメリットの共有

ファミリーオフィスは有形資産と無形資産を扱うため、一族が得るメリットも世俗的(金銭的)メリットと精神的メリットがあり、どちらも疎かにできません。世俗的メリットだけでは、一族は金銭的価値の結果のみに着目してしまい、一族間の関係性はいずれ薄れていくでしょう。反対に精神的メリットだけがあったとしても、一族メンバーが集団でいることの実益は小さくなり、個々人で活動していく方が効率的と感じ、同じく一族は纏まりを失うでしょう。両者を満たすには、先に述べたように継続的なコミュニケーションと一族及び一族事業の活動内容・成果の定期的に共有し、世代ごとに一族の絆を維持・強化することが必要となります。


関与する一族メンバーの選定

ファミリーオフィスへ関与するメンバーは、原則として、一族メンバーの全員です。しかし、関与することの意義を理解できていないメンバーは必ず存在します。そのような方にもファミリーオフィス構想へ参画させることを検討しなければなりません。特に、一族への影響力が大きい人物であれば、こうした人物の参画は不可欠と言えるでしょう。当初、一族メンバーの大宗が初めからファミリーオフィスの価値を必ずしも理解できていなくても、ファミリーオフィスでの活動を通じて学び、価値に気付いていただければ何も問題はありません。その過程により、一族への理解が深まるだけでなく、次第に他のメンバーに対して、一族が新たな価値や存在意義を認識することになります。


適切なアドバイザーの活用

ファミリーオフィスは一族と一族事業の資産状況を全て把握できる組織であるため、それらの情報を第三者に開示するには、相当な信頼と能力が第三者に求められます。一族内で全て整備することが理想的ですが、一族メンバーはファミリーオフィスの活動以外に本業があり、十分な時間をファミリーオフィスの活動に充てることは困難です。また、資産運用や無形資産の洗い出し、経営など、多岐に渡る分野を全て一族内の人材のみで対応することも容易ではないと想定されます。

したがって、上述のように必要に応じて各分野の専門家をファミリーオフィスの構想にアドバイザーとして組入れることは重要です。アドバイザーは、一族に寄り添いつつ客観的な判断のもと、適時適切な選択と対策を提案し、一族は、アドバイザーの意見を踏まえることで効率的な意思決定が可能となります


ファミリーオフィスは、本来永続化を目指す一族が設立する組織であるため、ファミリーオフィス自体も一族にとって永続的に価値を有するものとして存在し続けなければなりません。途方もないように聞こえるかもしれませんが、その一歩一歩は明確に見えており、着実に歩み続けることが永続化に寄与します。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等