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ファミリーオフィスにおける無形資産の効果的な活用戦略

ファミリーオフィスが対象とする資産は「広義の富」(=有形資産+無形資産)です。今回は「ファミリーオフィスの対象とする資産:有形資産編」に続いて、無形資産に着眼点を当ててご紹介致します。有形資産に関して、詳細を知りたい方は下記リンク先よりお読みください。

  ファミリーオフィスの対象となる資産<有形資産編> 株式会社青山ファミリーオフィスサービス

【参考資料】​​​​​​​

ファミリーオフィスについて
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目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスの文脈における無形資産
  2. 2.種類別にみた無形資産
  3. 3.特性でみた無形資産
  4. 4.一族の無形資産を活用する仕組み


ファミリービジネスの文脈における無形資産

ファミリービジネスにおける無形資産は、会計や法律上で定められた無形資産とは少々異なります。端的に言えば、「目に見えない」あらゆる資産がファミリービジネスにおいては無形資産として捉えることができます

従来、法律上で定義されている無形資産は、主に知財関連法で保護されている著作権、特許権、意匠権、ノウハウなどが該当します。その他に、個人や一族で共有する使命、価値観、ミッション、経験、人脈など必ずしも法的に保護されているとは言い切れない無形資産が存在します。

例えば、人脈の持っている価値は、電話1本で必ずしも公知になっていない情報をいち早く知ることができます。また、ある人と取引をしても良いのか悩む際に、過去の色々な問題や取引上の仕振りについて正確な情報を得ることができ、仕事上、大きなリスクヘッジになることは明らかです。

上記のマイナスの問題を回避するための人脈だけではなく、積極的に物事を展開していくときにおいても、人脈が効力を発揮した経験を持つ方は多くいることでしょう。そして、何度もこのような経験をし、具体的なノウハウを持っている人材は、事業のプロデューサーとして案件をまだソフトの段階から練り上げ、それを正式なビジネスモデルの提案へ徐々に纏めていく力を有していると言えます。

ファミリービジネスの永続化の試みにおいては、このような能力をもつ一族メンバーを内包していることが重要です。そして、代々にわたり無形資産を蓄積することができるファミリービジネス一族では、その強さが際立つのではないでしょうか

しかし、こういった無形資産も有形資産と同じく、一族が管理する上で留意すべきいくつかのポイントがあります。


種類別にみた無形資産

①一族の個々のメンバーが持つ、知識・スキル・経験・人脈

無形資産の中で最も基本的な要素であり、個人がそれぞれ内包している能力と言えます。

②一族の理念を共有する一族同士の無形資産が醸成する相乗効果

この相乗効果というのは融合されている状況であり、個々人の持つ知識、スキル、経験、人脈が明記され、事前に共有されていなければお互いに活用することはできず、①の状態のままとなります。例えば、同じ屋根の下で暮らしていない、いとこ間では同じ一族事業(ファミリービジネス)の目的のもと、知識、情報、人脈の融合や化学反応が起こり得ることは難しいと容易に想像できると思います。

しかし、こうした一族の無形資産をデータベースとして管理し、日常的に活用することで、一族と一族事業のプロジェクトに適時適切な人材を配置できます。それは互いの能力を知り得ているからこそ初めて相互作用が生じ、一族にもたらされる価値をより高めることができるのです。その意味で互いの一族メンバーへの能動的な働きがけが必要になります。

③一族が集団として持つ社会関係資本(=ソーシャル・キャピタル)

一族の持つ社会関係資本は基本的には一族で総有の状態になっているため、個々のメンバーに分割できません。社会関係資本とは一族事業全体に対する信用、評価、事業機会、人脈などが挙げられます社会関係資本は一族の誰か1人でもその価値の維持のための努力を怠れば、一族全員に悪影響(連帯責任)を及ぼす特性があります

例えば、一族の1人がスキャンダルを起こした場合、一族全体が社会的に重要な公職から辞さなければならないという世間体の観点からみたリスクがあります。一族は一族の持つ社会関係資本を背景とした公職を維持しているからこそ、多方面から多くの情報を獲得し、種々の目に見えない形で地域経済・社会へ影響力を行使することができます。つまり、社会関係資本の喪失は一族への大きな経済的損失につながるのです。

一族集団が持っている社会関係資本の維持のために、在るべきお金の使い方や正しい方向での努力、一族の価値観やミッションに照らした一貫性を伴う規律ある行動などが如何に重要かということを後継世代に口伝します。また、他のファミリーでの失敗事例なども通じて、常に襟を正して学んでいくことも必要であり、厳しい一族の規律が求められます。

こういった一族の無形資産は、オープンイノベーションが進んでいく現代の経営環境では、今後、益々重要になっていくものと考えられます。


特性でみた無形資産

無形資産は直接的な金銭評価が困難です。それ故、他者との交換や売買が難しいことになります。また、他の一族から単なる知識として、手法を学ぶことができても、自らの一族において、どのように実践し、一族の中に承継していくのかということになると、やはり相当な努力を一貫して行うことが求められます。

一方、こうした無形資産は、先述の金銭評価が難しい性質から政府より課税されず、また、分割不可能であるため、民法の相続規定に基づいて、相続の段階で分割し、個々人に所属させることもできません。このような特性から、世代を経る度に小さくなってしまう有形資産とは対照的に、無形資産は世代を経ても小さくなりません。むしろ、永続化の仕組みによって、努力をすれば世代を重ねるごとに無形資産は増加し、次の世代に非課税で承継できる資産になります。また、見えにくい特長があるからこそ、一族事業の競争力に壁を作り、一族事業の持続的な競争力の源泉となり得るのです

したがって、無形資産をどのように維持していくのか、また、どのように強くしていくのかということが、一族の富の持続化における最大の増減要因になることが暗示されております。


一族の無形資産を活用する仕組み

上記のように、無形資産には様々な効果を一族と一族事業にもたらします。そして、その効力をより高める手法が、ファミリーオフィスの活用です。

例えば、前述の無形資産の登録と管理が該当します。ここで管理というのは、「〇〇さん、今回、こういうプロジェクトがあるので、ぜひ〇〇さんの知識や人脈をご提供いただけませんか。」といった連絡をすることがファミリーオフィスの重要なコーディネーションの役割となります。

また、一族の無形資産を通じた貢献の在り方を個人として宣誓することが重要である中で、ファミリーオフィスからの拍車がかかれば、自主的にそれに対応しようという覚悟ができます。

さらに、ファミリーオフィスとして、一族事業の重要な取締役会において先立って開かれる会議を一族メンバーで設けることにより、個々人の意見交換を通じた一族全体の無形資産を背景にした一族の総意に基づく意思決定を、一族事業の取締役会を通じて反映させることが可能になります。


ファミリービジネスの一族がもつ無形資産は、一族の「広義の富」に質と量の両面で大きな影響力を与えます。しかし、皮肉なことにその効果は無形資産を失って初めて定量的に評価可能となります

したがって、適切なプロセスを経ることでしか一族の無形資産を基盤とする一族の富の増加は実現できません。だからこそ、一族が足並みを揃えていることが一族と一族事業の永続化の根幹にあり、ファミリーオフィスの最も重要な機能の1つが一族の一体性強化にあると私共は考えております

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【参考資料】 ファミリーオフィスについて
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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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