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ファミリーオフィスの活用例

ファミリーオフィスの目的は、一族及び一族事業の永続化を実現するために、一族と一族事業の持つ有形・無形の資産を管理・運用することです。今回は、この目的を達成するために、ファミリーオフィスをどのように活用できるのか例を示しながらご説明致します。

目次[非表示]

  1. 1.基本例:一族の意思統一及び意思決定機能として活用
  2. 2. 応用例:事業を売却された一族による活用
    1. 2.1.ファミリーオフィスを通じた一族の資産管理
    2. 2.2.ファミリーオフィスを通じた新規事業創造


基本例:一族の意思統一及び意思決定機能として活用

個々に性質の異なる一族の有形・無形の資産を無駄なく扱うには、何よりも担い手である一族に一体性(①共通の価値観、②共通のミッション、③互いに支え合うことの覚悟)が求められています。ファミリーオフィスでは、一族事業の経営者や一族の当主たる人物が運営の最終責任者を担うケースが多いのですが、こうした人物は自分の意見で物事を判断するのではなく、適切な一族会議体に基づく一族の代表としてその決定事項を執行するに過ぎず、それこそが一族の総意を表象する理想的な姿なのです。

例えば、世代間の十分な引継ぎが行われなければ失われるリスクが高まる一族の持つ無形資産を、一族の共通認識が反映された使命や価値観に従い、一族及び一族事業の持続的成長に貢献できるものへと世代を超えて昇華させなければなりません。

こうした一族のリーダーが担う役割を本来あるべき形で発揮させるには、他の一族メンバーが消極的な姿勢で参加してはなりません。消極的な参画では、一族のリーダーが一族の総意を纏めることができず、さらに言えば、リーダーの暴走や誤った判断を防ぎ、互いに支え合う同志としてリーダーへの健全な牽制機能を発揮できない恐れもあります。

一族のリーダーは客観性や一族全体を考慮した俯瞰性のある言動を常に心掛けていますが、リーダーとは異なる立場から客観的に物事を捉え、リーダーにメタ認知を与え助言できる人材が不可欠です。そのような人材を数多く内包できている一族ほど、ファミリーオフィスを効果的に活用できていると言えます。1つのアイディアとして、多層の世代や異なる性別を反映したダイバーシティに富んだアドバイザリーボードを設置して、一族の当主による私物化や暴走リスクをコントロールする仕組みも作ることが有効でしょう。個々の価値観を反映した一族全体の価値観に基づいて、一族全員で活発に議論し、より良い答えを出していく体制こそがファミリーオフィスを用いて可能になる、在るべき一族の意思統一及び意思決定のプロセスなのです。


 応用例:事業を売却された一族による活用

上述の通り、ファミリーオフィスを設立する一族の対象はファミリービジネスを所有している一族であることが原則です。しかし、一族内に後継者がいない場合や事業の競争戦略上、一族事業をやむを得ず第3者に売却された(若しくは検討されている)一族もいらっしゃいます。

ファミリーオフィスを通じた一族の資産管理

こうした一族が成功裡に事業を売却された際には、売却の対価として得た多額の資産を一族で円滑に活用・承継することが求められます。このとき、ファミリーオフィスの設立が1つの有効な対策になり得ます。事業を売却された一族には、ファミリーオフィスを作って単に資産の共同管理をすることに留まらず、一族が持つ富の形成の経緯や富を持つ人間としての未来の一族や社会への責務を理解するために家族憲章の作成も推奨しています。家族憲章に関しては、別ブログ「家族憲章を活用できる一族の主な例」をご参照ください。

  家族憲章を活用できる主な一族の例 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


事業の譲渡オーナー家が設立するファミリーオフィスにおいても、一族の意思統一及び意思決定に資する役割を果たすことができます。さらに、一族が事業を所有されていたことを直接知らない未来の世代に、一族が築き上げた有形・無形資産の成り立ちを学ぶ媒体としてファミリーオフィスを活用できます。こうした取組みを積極的に実施することで、一族の富の形成における成功の秘訣が詰まった一族の持つ無形資産に基づいた有形資産の管理・運用がより効果的にできるようになります。

ファミリーオフィスを通じた新規事業創造

また、当世代及び後継世代が譲渡対価をもとに新規事業を手掛ける場合でも、一族のファミリーオフィスは大きく貢献します。資産の背景が全くない起業家が1から始める新規事業とは異なり、このケースでは、一族事業の譲渡対価を元手に起業でき、開業にあたり資金繰りに余裕があるため、ややもすると杜撰な事業化調査に基づき事業に着手してしまうリスクに陥る可能性が高まります。

そのようなリスクを回避するには、十分な事業のデューデリジェンスを経た上で、一族の共同資金プールからの投資を正当に担保するためにも、事業のガバナンス整備や規律ある財務状態の実現の他に、ファミリーオフィスを通じた一族への説明責任構造の確立も求められています。それは、新規事業に関与していない一族メンバーに対しても、一族の資産を使用したことに伴う成果を報告する義務があるためです。報告を受ける一族メンバーは、事業の数値目標や投資状況のみならず、当該事業経営が一族の無形資産の維持・増加に資するものであるか判断する必要があります。こうしたプロセスがあるからこそ、一族が互いに支え合う関係を継続できるのです。

その一方で、新規事業を経営する一族メンバーにとっても、事業に携わっていない立場で一族の価値観を理解しているメンバーから評価をもらうことは、今後の更なる成長に活かせる重要な情報源となります。

単なる金儲けの事業では、表面的には一族の富を増やすように見えるものの、水面下では一族の無形資産(例:一族の強い絆や社会関係資本など)を毀損していることが十分に考えられます。長期的に考慮すると、一族の富を減らす要因になり得ることを常に注意しなければなりません。


ファミリーオフィスが成し遂げようとする一族の持つ有形・無形資産の永続化は、短期的にはその成果が見えにくい面があり、今の一族の活動が適切なものであるのか疑問を抱くこともあるでしょう。しかし、ファミリーオフィスの継続的な運営は、こうした資産を失うリスクを低減させ、一族及び一族事業の永続化を着実に推し進めています。現在、生じている問題に対処するだけでなく、問題を未然に防ぐための方策が一族の広義の富を未来へ繋ぐミッションを持つファミリーオフィスによって実現できるのです。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等