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ファミリーオフィスを設立する目的と設立に向けた取り組みを紹介

今まで属人的であった一族メンバーの持つ知識や経験、ノウハウなどを未だ見ぬ未来の一族メンバーも含めた他の一族メンバーと共有し、一族事業(=ファミリービジネス)経営や一族の富に相乗効果をもたらすことが一族と一族事業の永続化に大きく貢献します。そのような機能を果たすように一族の絆を強め、一族間のコミュニケーションを活性化させることもファミリーオフィスの重要な役割です。

今回は、ファミリーオフィスを設立する際に、留意すべきことに関してご説明致します。

【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィスを設立する意義
  2. 2.ファミリーオフィスの設立に向けて


ファミリーオフィスを設立する意義

ファミリーオフィスが管理の対象にしている資産の内、非ファミリービジネスとの比較において、最も特徴のある資産の1つが一族の持つ無形資産だと言えます。無形資産は、一族メンバーが個人で保有しているものと集団で保有しているものに大別され、具体的には、上述のような知識や経験、人脈などが挙げられます。こうした無形資産が、一族及び一族事業の価値を押し上げることを経験した方は多くいらっしゃるかと思います。その一方で、無形資産はまま暗黙知であることもあり、言語化した上で、世代を超えて承継される仕組みに乗せる必要があります。残念ながら、一族の有形資産が毀損したとき、初めて有形資産の価値を支えていた無形資産の価値の大きさに気付くことが多く見受けられます。

したがって、ファミリーオフィスを設立する意義の1つは、一定の仕組みに基づいた無形資産の管理・運用を担えることにあります。無形資産を組織で扱うことは、一族メンバー全員に共有するだけに留まらず、属人レベルでは実現不可能であった無形資産の更なる価値の向上(=相乗効果)も期待できます

こうしたファミリーオフィスの持つ役割は一族の中心人物(事業承継者や一族事業の株主のみ)だけが理解すれば良い訳ではありません。無形資産は個々人により異なった価値を有し、また、一族内における一族メンバーが担う役割も様々であるため、限られた一族メンバーのみでは、一族と一族事業の持続的成長が実現し得ない恐れがあります。したがって、一族及び一族事業に貢献する意思のある多くの一族メンバーを巻き込むことが重要となります

その際に、如何にしてファミリーオフィスを設立する意義を理解していただけるかが重要であり、ファミリーオフィスの設立だけでなく、その後の運営も含めて他の一族メンバーから理解を得ることが求められています。無形資産を先代より受け継いで、自分たちの世代でよりその価値を高め、次の世代へ引き継ぐ、この一連の流れを仕組みとして確立することがファミリーオフィスの大切な目的であることを伝えなければなりません。別記事「ファミリーオフィスの運営」にまとめておりますので、併せてそちらもお読み下さい。


こうした理由からファミリーオフィスを設立した当世代だけでは、その本来の目的を達成することは恐らくできないでしょう。その本来の役割には多世代に渡る継続的な努力が求められているからです。しかし、当世代が設立し、一歩を踏み出さなければ、一族と一族事業が持つ有形・無形資産が失われるリスクはさらに大きくなり、永続化の実現も遠ざかるばかりです。仮にファミリーオフィスの設立ができなくとも、検討をすること自体が無形資産の見えるかの大きな価値になるため、可能性の高低に関わらず挑戦することを推奨します


ファミリーオフィスの設立に向けて

ファミリーオフィスを設立しようとなると、具体的にどのような形態で行うか疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。結論を申し上げれば、一族の資産を管理できる組織形態であることが求められています。それ故、一族が株主であり、一族事業をコントロールできる一族の資産管理会社や持株会社がファミリーオフィスの役割を担える場合が多いと思われます。

たしかに、こうした法人では、ファミリーオフィスが扱うような一族の持つ無形資産を管理・運用する機能を有していないことがほとんどですが、多くの場合、機能を追加するだけで事足ります。資産運用を担う会社を、法規制の観点から別会社にて設立する場合もありますが、いずれにせよ無形資産を含めた一族全体の資産管理を担う組織は上記のような法人が担います。

また、一族及び一族事業の方針に関しては、資産管理会社や持株会社の株主が意思決定をするため、ファミリーオフィスの構想に賛同していただける一族メンバーには、株式を所有してもらうことが望ましいと言えるでしょう。しかし、株式を保有していない一族メンバーにも、一族及び一族事業の活動の成果を一族に共有することは欠かせません(守秘義務の論点より一部情報に制限を伴うことはあります)。特に、一族の持つ無形資産は定期的な共有(年1回以上の頻度)が無ければ、失うリスクが高まるため、注意が必要です。

そして、一族メンバーが結婚や出産により新たに加わった際には、速やかに一族の持つ有形・無形資産の状況を共有させ、一族及び一族事業の目的に共感していただくことが重要です。


ファミリーオフィスの設立には、一族の固有の事情を反映した適切な体制のもと、一族全体の組織であり続けることが重要です。ファミリーオフィスの運営を先導する一族メンバーは必要である一方で、一部の一族だけに奉仕する組織であってはいけません。一族の中心人物は影響力があるからこそ、一族全体の利益に資する公平で透明性のある行動が求められ、そのパフォーマンスに対して、常に一族全員が評価を下せる立場にあります。それこそが一族全員が携わるファミリーオフィスなのです。​​​​​​​

【参考資料】ファミリーオフィスについて
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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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