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ファミリーオフィスと資産管理会社の違い

一族事業(=ファミリービジネス)を所有されている方や、多くの不動産を保持している地主の方などは、一族の資産管理会社を設立しているケースが多数見受けられます。一方、昨今、富裕層を中心に設立されているファミリーオフィスも一族の資産管理・運用を担う組織として徐々に注目を集めるようになっています。
今回はファミリーオフィスと従来型の資産管理会社との違い、そして、一族の資産管理(・運用)の役割を果たすために求められていることに関してご説明致します。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィスは資産管理会社を包摂する
  2. 2.どちらを選ぶべきか?


ファミリーオフィスは資産管理会社を包摂する

「ファミリーオフィス=資産管理・運用会社」と認識されている方は、後述をお読みになる前に、是非とも別ブログ「ファミリーオフィスが行うべき資産運用」をご一読下さい(先のブログを踏まえてお読みになるとより理解が深まると思います)。

  ファミリーオフィスが行うべき資産運用 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


資産管理会社は、一族メンバーがもつ株式や不動産などの資産を持つ器としての役割に特化していることが常態で、ファミリーオフィスに比べ、日本では多くの人にその役割は認知されています。特定の一族の便益に寄与する会社としての特徴が色濃く出ているという点において、一見、資産管理会社とファミリーオフィスは共通しているようにも思えます。しかし、ファミリーオフィスでは、その管理・運用の対象が、一族の有形資産に加えて、一族の持つ無形資産(=一族のもつ価値観や使命、社会からの信頼・評判など)にまで及ぶ点に大きな違いがあります。
すなわち、ファミリーオフィスが担う大きな役割は、一族の資産管理・運用に加えて、一族の持つ無形資産の承継も担うことであり、資産管理会社が果たす役割はファミリーオフィスの一部であると帰結できます。
ファミリーオフィスでは、一族と一族事業を支える一族メンバー全員が継続的に上記2つの役割を果たせるように一定の仕組みを定めることが求められます。その際、最も重要なことは、一族が足並みを揃えて進めるように法制度などを通じて半ば強制的に一族を纏めるのではなく、各メンバーが一族理念を共有し、日常的にコミュニケーションをする場を通じて、一族と一族事業の持続的成長を真に願い、一族と一族事業を支える強い意志を持つことです。
当人たちの意思に反して定めた仕組みでは、短期的には上手くいくとしても、長期的(=永続化を試みるとき)には望ましい状態ではありません。将来、確実に起こる一族メンバーの変遷や、一族及び一族事業に不測の事態が生じた際に、表面的に団結している一族では、その絆は容易に揺らぎ、一族がバラバラになるリスクは高まるからです。
一族の持つ資産管理・運用には、別ブログ「ファミリーオフィスが対象とする資産:無形資産編」で既に掲載したように、ファミリービジネスを持つ一族が永続化の実効性を高めるには、有形資産の源泉となった無形資産も同時に管理・承継していくことが不可欠で、ファミリーオフィスがその実現のための良い器となります。例えば、ファミリーオフィスでは一族が持つ無形資産を管理・登録し、一族全体に共有させる場を設計・運営することで提供していきます。具体的には、一族メンバーに無形資産を通じた貢献の在り方を宣誓させることなどで、他のメンバーが個人として持つ無形資産の価値を具体的に捉え、メンバー間の無形資産の相乗効果を企画した活動を行うことが、一族事業の価値向上に寄与します。

  ファミリーオフィスの対象となる資産「無形資産編」 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


上述のようにファミリーオフィスでは、有形資産の管理・運用に限定されていない、一族のより幅広い資産を管理・運用の対象としていることがお分かりいただけるかと思います。

どちらを選ぶべきか?

ファミリーオフィスと資産管理会社に優劣を付けることは、一族の資産の特性や規模及び関与する一族の人数などを考慮せずに議論することは適切ではありません。どちらの機能が自分たちの一族に必要なのか判断することが求められます。ご参考までに一族の類型の典型例を3つ紹介致します。

パターン①:一族の持つ無形資産の管理・運用をこれからは明瞭的に取組もうとする一族
一族の持つ無形資産が個人レベルに留まっている現状から、今後は一族が一丸となって無形資産を大切にし、永続化を試みようとする一族です。このような一族の例では、当然にファミリーオフィスの設計を推奨します。

パターン②:一族メンバーが強い絆で結ばれ、円滑なコミュニケーションが取れている一族
このような一族は意識せずとも一族メンバー間で無形資産の共有ができており、ファミリーオフィスの仕組みを定める必要はなく、資産管理会社の状態でも問題ありません(もし欠けている要素があれば、現状の仕組みに付け足すだけで補えます)。
しかし、仲の良い当世代であっても、次世代以降ではその強力な絆を失うリスクがあります。そのリスクを減らすには、ファミリーオフィスを活用することが有効です。当世代は自分たちが活用することよりも、仕組みを設計して次世代に運営手法を見せ、遺すことが求められます。それが次世代以降の一族と一族事業の永続的な発展に繋がります。

パターン③:無形資産の価値に共感できない一族及び一族メンバー
無形資産を整備せずとも一族事業は好調である場合、本業が激務で無形資産に時間を割くことができない場合など、様々な背景から結果として、行動を見る限り、無形資産の整備は不要だと考えている一族もいらっしゃるかと思われます。
しかし、一族と一族事業の繁栄には人脈や信用、評判などの一族の持つ無形資産が必ず起因しています。そして、それを疎かにすると一族と一族事業に悪影響を及ぼすことは直感的には理解できている筈です。それでも無形資産が不要だと感じるのは、謂わば、無形資産の棚卸しができていないからです。一から十まで固めることや、敢えて明文化することに嫌悪感や煩わしさを抱き、それ故、ファミリーオフィスは不要だと考えていることが想定されます。
そのような場合では、例えば、これだけは後継世代においても一族で守り続けたいとするものを明示的に決め、一族間で共有していくことが重要です。一見、単純な対策のように思われるかもしれませんが、これこそが無形資産を整備するための大切な一歩なのです。関係者の主体的関与と事前の合意なく、無理矢理に一族を縛る制度を作ることは上述の通り、一族の絆を強めるという目的からすれば何も意味を成しません。主要な関係者が集い、十分な討議を経て、一族全員が納得する形が何よりも重要であり、仮に、一族全員が納得するものができなくとも、一族の共有理念やミッションを探索することを目的に互いにコミュニケーションを深める取組み自体が、実は無形資産の整備に必要なプロセスになります。そうした取組みを粘り強く繰り返すことで、ファミリーオフィスの設計、そして、一族と一族事業の永続化に向けて着実に前進しているのです。


今回は、一族の持つ無形資産の扱いの差から、ファミリーオフィスと資産管理会社の特徴をご説明しました。両者に違いはあるものの、どちらも一族の幸せを実現するための1つの手段に過ぎません。本質はご自身の一族がどう在りたいのか、何を目指しているのか考えることです。本稿を通じて、皆様にも今一度、ご自身の一族と事業について思い返していただければ大変嬉しく思います。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等