ファミリーオフィスと資産管理会社の違い

一族事業(=ファミリービジネス)の所有者や、多くの不動産を所有する富裕層の方に、一族の資産管理会社を設立しているケースが多数見受けられます。同時に昨今、富裕層を中心にファミリーオフィスも徐々に注目を集めるようになっています。


今回はファミリーオフィスと従来型の資産管理会社との違い、そして、一族の資産管理(・運用)の役割を果たすために求められていることに関してご説明致します。

【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!


目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィス=資産管理会社?
    1. 1.1.資産管理会社
    2. 1.2.ファミリーオフィス
  2. 2.ファミリーオフィスの重要な機能
  3. 3.ファミリーオフィスと資産管理会社、 どちらを選ぶべきか?
    1. 3.1.ファミリーオフィスが必要な一族
    2. 3.2.ファミリーオフィスが不要な一族


ファミリーオフィス=資産管理会社?

「ファミリーオフィス=資産管理・運用会社」と認識されている方は、本記事の理解をより一層深めていただくため、是非、別記事の「ファミリーオフィスが行うべき資産運用」も併せてご一読下さい。


資産管理会社

資産管理会社は、株式や不動産などの有形資産を一族が保有し運用するための器としての役割に特化していることが常態であり、その役割は多くの人に認知されています。特定の一族の便益に寄与することを目的として設立される点において、資産管理会社とファミリーオフィスは共通しています。


ファミリーオフィス

ファミリーオフィスでは、その管理・運用の対象が、一族の有形資産に加え、一族の持つ無形資産(=一族のもつ価値観や使命、社会からの信頼・評判など)にまで及ぶ点が資産管理会社との大きな違いになります。


すなわち、ファミリーオフィスが担う大きな役割としては、一族の資産管理・運用に加えて、一族の持つ無形資産の承継も含まれ、資産管理会社が果たす役割はファミリーオフィスの一部であると言えます。

無形資産については別記事「ファミリーオフィスが対象とする資産:無形資産編」もあわせてご覧ください。


ファミリーオフィスの重要な機能

ファミリーオフィスの運用には、一族が有形・無形資産を管理・運用し、後継世代に承継していくための一定の仕組みを構築することが求められます。

その際、法制度などを根拠とした強制力を使って一族をまとめることを念頭に置くのではなく、一族の各メンバーが、一族理念を共有し、一族理念に基づいた対話を通じて足並みを揃えて仕組みを構築することが最も重要です。

将来、確実に起こる一族メンバーの変遷や、一族及び一族事業に不測の事態が生じ得ることを考えると、その様な時でも長期的に運用可能な仕組みを志向する必要があります。仕組みを定めていても、それが当人たちの意思に反したものであり、表面的に団結しているだけの一族では、短期的には上手くいくとしても、その絆は容易に揺らぎ、有事の際には一族がバラバラになるリスクは高まるからです。

ファミリーオフィスでは、一族が日常的なコミュニケーションだけではなく、一族理念に基づいた対話(公式なコミュニケーション)をする場の設計・運営を行います。具体的には、一族メンバーに無形資産を通じた貢献の在り方を宣誓させることなどで、他のメンバーが個人として持つ無形資産の価値を具体的に捉え、メンバー間の無形資産の相乗効果を企図した活動を行うことが、一族事業の価値向上に寄与します。


上述のようにファミリーオフィスでは、有形資産の管理・運用に限定されていない、一族のより幅広い資産を管理・運用の対象としていることがお分かりいただけるかと思います。



ファミリーオフィスと資産管理会社、 どちらを選ぶべきか?

ファミリーオフィスと資産管理会社の優劣について、一族が持つ資産の特性や規模、関与する一族の人数などを考慮せずに議論することは適切ではありません。

重要なのは、ご自身の一族が持つ資産や一族の状況に照らし、どちらの機能が自分たちの一族に必要なのか判断することです。ご参考までに一族の類型の典型例を3つ紹介致します。


ファミリーオフィスが必要な一族

パターン①:大きな無形資産を持ち、その重要性を認識している一族

一族の発展に役立っている事を容易に自覚できるほど、社会からの信頼などの無形資産を多く持っている一族は、明らかにファミリーオフィスを選択するべき一族と言えます。

例えば、一定規模以上の事業または一族が設立した公益財団法人などを通じて社会に対して大きな貢献をした結果、著名となった一族や、ある地域で代々企業経営を行いその地域経済のエコシステムで重要な役割を果たしている、所謂、地域の名士と言われる方達が、このパターンの代表例と言えます。


パターン②:資産を一族が集団保有し、その一族集団の一体性が資産承継に重要な一族

無形資産には一族の一体性も含まれます。ある有形資産を集団で保有し皆がその資産からの利益を享受している、そして、その資産を集団保有し利益を皆で享受する体制を次世代以降も継続しようと考えるご一族は、一族の一体性を維持・強化する仕組みの構築と運用が重要となります。

つまり、ファミリーオフィスを選択するべき一族と言えます。例えば、一族事業会社の株式を集団で保有し配当を得ているご一族などがその代表例と言えます。


ファミリーオフィスが不要な一族

パターン③:無形資産承継が不要、または無形資産承継の取り組みへの労力と効果が見合わない一族

無形資産の承継・運用・管理には一族が継続的に時間と労力を投じることが必要です。従って、そもそもファミリービジネスの文脈での無形資産を持っていない、持っていたとしても小さい場合には、あえて追加の時間と労力がかかるファミリーオフィスを選択する必要はなく、資産管理会社で十分と言えるでしょう。例えば、資産運用や副業を行っている俸給労働者が税対策で資産管理会社を設立している場合などがその代表例と言えます。


今回は、一族の持つ無形資産の扱いの差から、ファミリーオフィスと資産管理会社の特徴をご説明しました。両者に違いはあるものの、どちらも一族の幸せを実現するための1つの手段に過ぎません。本質はご自身の一族がどう在りたいのか、何を目指しているのか考えることです。本稿を通じて、皆様にも今一度、ご自身の一族と事業について思い返していただければ大変嬉しく思います。

【参考資料】ファミリーオフィスについて

下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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