ファミリービジネス(同族経営)が抱える問題点

ファミリービジネスから抱くマイナスのイメージは、オーナー経営者の暴走や企業の私物化、経営革新への消極性などが挙げられるのではないでしょうか。しかし、こうした要素は、ファミリービジネスを所有する一族統治の在り方次第で克服でき、新たな強みを創り出すことも可能です。

今回は、ファミリービジネスが抱える問題点を切り口に、所有者である一族の関わり方をご説明できればと思います。

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目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスが抱える問題点
  2. 2.内的要因
    1. 2.1.理念の喪失
    2. 2.2.関係性の希薄化
  3. 3.外的要因
    1. 3.1.コーポレートガバナンス改革
    2. 3.2.ローカル企業の二極化
    3. 3.3.人口減少や経済の成熟化などによる国内市場の成長鈍化
    4. 3.4.DX対応
  4. 4.一族とファミリービジネスの関わり方


ファミリービジネスが抱える問題点

下表に示す通り、ファミリービジネスは世代を経るごとにその生存率が大きく下がる傾向にあります。ファミリービジネスの学術研究が進んでいる欧米の論考の多くが、3世代目の生存率は10%未満と計測しています。それはファミリービジネスを取り巻く内外の環境変化に要因があると考えられています。

図表 世代別にみたファミリービジネスの生存率


内的要因

ファミリービジネスの存続を阻害する内的要因としては、下記2点を背景に、世代を経るごとに一族メンバー間の遠心力が高まる(=求心力を失う)からです。

理念の喪失

創業者との関係が希薄になるにつれ、創業者の理念や創業の苦しみ、一族間で共有すべき行動原理など、一族事業を成功裡に導いてきた諸要因が喪失され、実行できなくなります。

関係性の希薄化

3世代目以降は、一般的に1つ屋根の下で寝食を伴にしたことのない従兄弟間の関係でもあり、2世代目と比べて、その絆は著しく希薄化する傾向にあります。


外的要因

様々な外的要因に共通することは、創業から少なくとも60~80年以上経営すると、市場環境は大きく変わり、創業当初は最適であったビジネスモデルがあるべき姿と大きく乖離する可能性が高まることです。直近の経営環境でみれば、下記4点のメガトレンドがそうした環境変化の要因として挙げることができます。

コーポレートガバナンス改革

昨今、急速に進んでいるコーポレートガバナンス改革は上場企業を対象としますが、市場において非上場のファミリービジネスは上場企業と競争している以上、非上場のファミリービジネスもこうしたガバナンス改革の影響から自由ではありません。これまでファミリービジネスの固有の強みと言われていた長期戦略の実践という特長も、コーポレートガバナンス改革で上場企業にも長期視点での経営を持続的な企業価値向上の観点から強く求めるようになり、今やその市場における相対的な優位性が揺ぎ始めています。

ローカル企業の二極化

今後の地域経済では、後継者不足や経済規模の縮小などを背景に、海外との直接競争にさらされない、いわゆるローカル企業を対象とする業界再編の加速化が予想されています。特定地域内で特定製品・サービスを提供する業界において生産性の高い企業は、業界再編の担い手として、地域の中核企業の地位を獲得できます。このような流れに否応なく巻き込まれるローカル企業は、自身のポジションの確認及び今後の方針を検討していかなければなりません。

こうしたローカル企業の二極化を引き起こす典型的な業種としては、ガソリンスタンドやプロパンガス、生コンなどが考えられます。

人口減少や経済の成熟化などによる国内市場の成長鈍化

国内で成長鈍化する既存事業に対して、取り得る手法は(1)新規事業の創造、(2)既存事業のグローバル化、(3)ニッチプレーヤーとしての特化(=固定費を上げず、粗利率の高い分野で競争優位性を築くこと)が考えられます。

しかし、こうした対策を容易に成功に導く企業はほんの一握りです。

まず、上記(1)の新規事業の創造については、ファミリービジネスの経営者は20~30年に一度しか経営交代しない傾向が前提にあるため、その間経営変革を起こしにくく、先代までが遺した事業を保守的に堅持しようとするあまり、必要な経営変革ができません。むしろ伝統の維持が果たすべき使命と考える企業も少なからず存在します。

次に、上記(2)の既存事業のグローバル化に関しては、一定以上の事業規模、製品・サービスの高い国際的競争力、国際化を実現できる経営力・社内体制の全てが揃わなければ実現は困難です。

さらに、上記(3)のニッチプレーヤーにおいては、こうした領域に展開できる企業がそもそも僅少であり、全ての業界で可能であるとも言い難いです。

実際のところ、事業の厳格な競争力分析に基づけば、事業を売却もしくは廃業して、一族の理念を重んじた資産管理会社として再生する方が、事業を続けることより一族の永続化にとって賢明な選択である場合もあります。


DX対応

DXへの対応は生産性向上のために必須の対応ではあるものの、組織及び戦略上の制約が実現を困難にしています。DX対応はビジネスモデルの変更に伴うものであり、その実行にはしばしば企業文化の変更も必要とするため、実行が困難になる場合がみられるからです。その結果、DX化の成否が事業の生産性に差を付け始める事態になり始めています。


こうした外部の経営環境の変化に如何に対応するかが、今後のファミリービジネスの永続化を左右します。さらに、社内の人間関係に安定性が失われやすくなる事業承継のタイミングが、こうした大きな外部環境変化がもたらすインパクトと重なると、ファミリービジネスの脆弱性は一気に高まるため、注意が必要です。


一族とファミリービジネスの関わり方

ファミリービジネスを所有する一族にとって、たしかに事業に携わる一族は一族を代表して経営執行を担う者です。しかし、一族事業の永続化は、こうした事業の執行責任者の一族のみが支えるわけではありません。永続化の実現において、何よりも重要なのは、各メンバーが一族を支える強い意思を持ち、スチュワードシップ(受託者責任の精神)に基づいてそれぞれの立場や役割で一貫した行動を取り続けることです。

ここで述べた対策は上記内部要因の対策としては、直感的にもご納得いただけるかと思います。しかし、こうした対策は外部要因への対応策としても有効です。なぜならば、一族の理念や価値観は経営理念に反映され、その経営理念は経営戦略・営業活動の一貫した実践を担保するからです。つまり、ファミリービジネスを所有する一族の強固な絆が事業の持続的な成長力の基底を構築するのです。


一族がどのような社会課題を解決するために起業し、継続的に所有(+経営)できたのか。また、一族事業が生み出した果実をどのような一族の理念に基づいて、マルチステークホルダーに分配したいのか。こうしたメッセージを社内外に向けて、明確に伝えることが不可欠です。仮に、このようなプロセスを実践しないまま、上述の内外の環境変化を乗り超えても、一族の永続性という観点からみると意味がありません。時間の経過と共に新たな環境変化は必ず生じるため、小手先のテクニックだけではいずれ限界に達します。根底にある一族の絆(=ファミリーガバナンス)を整備することで、一族及びファミリービジネスが持続的な成長を成し遂げる第一歩となるのです。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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