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後継者育成の在り方|ファミリービジネス後継者を育成する2つの手法

ファミリービジネスの後継者は、次の2つのタイプに大別されると考えています。


第1に、先代の経営手法を引き継いで、事業拡大や効率化を目指す経営者のタイプです。第2に、先代の経営手法に従わず、独自の手法で事業拡大や効率化を目指す経営者のタイプです。


特に、親世代の経営者が創業者やいわゆるカリスマ経営者と見なされている一族では、後継者は親の真似ができないなら、むしろ真逆のことをするというアクションを取ろうとするからです。


表面上の経営スタイルは一見、正反対のタイプではあるものの、根底にある一族が大切にしてきた理念や価値観を確実に承継することは、一族を支える株主や社内外のステークホルダーの支持を得るためにも重要です。


そうでなければ、一族事業を根底から支える世の中から受けている尊敬や信頼、それに伴う特別な社会的地位といった一族事業の差別化要因となっている無形資産の1つである社会関係資本を失うことになるからです。

無形資産に関しては、別記事「ファミリーオフィスの対象となる資産<無形資産編>」をご参照ください。


今回は、ファミリービジネスの後継者育成の目的とその手法に関してご説明いたします。


目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスの後継者に求められる経営変革
  2. 2.ファミリービジネスの経営変革に必要な2つの要素
  3. 3.ファミリービジネスの後継者を育成する2つの手法
    1. 3.1.家族憲章を通じた後継者育成のアプローチ
    2. 3.2.ファミリーオフィスを通じた後継者育成のアプローチ


ファミリービジネスの後継者に求められる経営変革

一族事業において、後継世代に求められる共通の使命は一族事業に経営変革をもたらすことです。チャールズ・A・オイラリー氏とマイケル・J・タッシュマン氏による『両利きの経営』(監訳・解説:入山 章栄、解説:冨山 和彦、訳:渡部 典子)にあるように、経営変革の具体的な手法としては、既存事業の深化と新規事業の探索に分けられます。


どちらをどの程度の比重で取組むかは各社に置かれている内外の経営環境次第であり、一概に理想的な配分はありません。しかし、究極的な目標は新規事業と既存事業の両輪をバランスよく回し、中長期的に企業価値を持続的に向上させることです。


ファミリービジネスの経営変革に必要な2つの要素

こうした経営変革を一族事業のリーダーとして成功裡に導くには、次の2つの要素を兼ね備えることが不可欠です。


① 経営人材として求められる高い経営能力(業界知識、経験・実績、人間力など)


② 一族及び社内のガバナンス整備


上記①はファミリービジネスであるか否かに拘らず、経営人材に必須の能力ではあるものの、②はファミリービジネス固有の要素と言えるでしょう。

②を進めていくには、高レベルの①を以ってさえすれば、自ずと実現できると考えがちですが、ファミリービジネスの場合、一族事業を支える一族株主の支援なしには上手くいくとは限りません。

そこには、立場や利害関係の異なる一族の関係者が入り、経営者の立場からのアプローチだけでは、物事がスムーズに動かない可能性があるからです。

こうした一族の関係者が介入する可能性を面倒だから株式を集めて排除するという考え方に立つのではなく、一族事業の永続化は一族全員が自分たちの事業を支えるマルチステークホルダーのためにも大切だというスチュワードシップの原点に立ち返って粘り強く対応すべきです。

具体的には、経営者を筆頭に、一族と一族事業を支える意思を持つ一族メンバー全員で②に取組み、一族及び一族事業の一体性を構築することが極めて重要となります。


上述のように、後継者に課せられた使命は一族及び一族事業の持続的な成長を成し遂げるものです。こうした未来の一族リーダーやリーダーを支える一族メンバーの育成には、後継者育成の段階から一族全体で教育に関与し、次世代の一族と一族事業の絆を強めることが要となります。

後継世代の一族及び一族事業の持続的な成長をどれほど当世代が真剣に考えているか、前述のスチュワードシップ(=受託者責任の精神)の有無が仕組み作りに向けて肝要となるのです。


ファミリービジネスの後継者を育成する2つの手法

家族憲章を通じた後継者育成のアプローチ

家族憲章とは、一族と一族事業に関する様々な規定を記した文書です。その重要な役割の1つに、一族の子弟教育に関する取決めがあります。教育方針の在り方や一族事業に必要な学習領域など、一族独自の内容が盛り込まれる必要があります。


こうした記載が求められるのは、一族の教育制度拡充の要請に加え、後継世代間での一族事業への関与に対して、公平性を担保するためです。


また、現社長や大株主である一族(主に、直系の一族)の子どもだからという理由だけで、特別な扱いを受け、一族事業の重要な地位に形式的に就くことは、一族間の不和を招く恐れがあり、こうしたマイナス要因の芽を事前に摘むためでもあります。


それ故、将来、一族と一族事業の永続化に貢献することを条件に、後継世代には教育の機会を平等に与えることが重要です。同時に、後継世代は一族の支援のもとに受けた教育の進捗状況及びその成果を、一族会議体を通じて一族に伝え、一族の経営資源を投入する観点からの説明責任に応える必要もあります。


また、仮に、一族事業に入らない選択をした後継世代が現れても、こうしたプロセスを経ることで、後継世代同士が支え合う関係性を創れるため、一族の絆を強固なものにできます。


ファミリーオフィスを通じた後継者育成のアプローチ

上述の家族憲章及び一族会議体の設計・運用を限られた一族のリーダーが家庭や事業を管理・リードしながら行うことは時間やノウハウの観点からも限界があります。


そこで、役に立つのがファミリーオフィスです。ファミリーオフィスは、一族が持つ有形・無形のあらゆる財産を管理・運用する組織であり、一族の子弟教育もファミリーオフィスの重要な対象業務となっています。人の教育を通じて、無形資産の多くは暗黙知として伝わるからです。


一族及び一族事業の現状を受けて、適時適切な教育内容・手法は変化していきます。それ故、一族及び一族事業を包括的に把握できるファミリーオフィスが主体となって、教育方針を制定することが最適解の1つと言えます。


時代を経るごとにファミリーオフィスに教育のノウハウが蓄積するため、より高度な教育をタイムリーに提供することができ、ファミリーオフィスは一族及び一族事業の持続的な成長を無形資産の面から実現する一族永続化の基盤となります。


ファミリーオフィスを活用した一族教育に関しては、別記事「ファミリーオフィスが一族の教育にもたらす効果」に具体例と併せて記載しておりますので、ご参照ください。


上述の通り、ファミリービジネスの後継者育成は、一族及び一族事業の求心力を高める上で不可欠な要素です。一族の一体性があって、初めて一族事業の持続的な成長は実現できるため、一族の教育においても一貫性が求められています。それ故、従来、各世帯別に任せがちで一族価値の教育などに対して継続性が保証できない状態から脱却し、一定の仕組みに基づいた組織による整備の重要性が求められているのです。


【参考資料】

ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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