ファミリーガバナンスとは

 ガバナンスとは一般的に統治体制を意味し、昨今、注目されているコーポレートガバナンスは、中長期的な視点で持続的な企業価値向上を目指すための企業統治の在り方だと理解されています。今回取り上げるファミリーガバナンスとは、ファミリービジネスの所有者(=支配株主)である一族に関するガバナンスです。

【参考資料】ファミリーガバナンスについて

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目次[非表示]

  1. 1.ファミリーガバナンスの概要
  2. 2.ファミリービジネスのガバナンスの二重構造
  3. 3.ファミリーガバナンスの整備には
    1. 3.1.家族憲章
    2. 3.2.一族会議体
    3. 3.3.ファミリーオフィス

ファミリーガバナンスの概要

 ファミリービジネスの所有者である一族に、高水準のガバナンスが求められているのは、一族の一体性が一族事業の持続的な成長をもたらすためです。一族株主が足並みを揃え、一族事業の持続的成長に資する言動を一貫して取らなければ、円滑な経営活動のみならず、ファミリービジネス固有の社会的価値強化は望めません。

 一方、一族の1人だけが一族事業の株主で、その人物が経営執行責任を担っている場合や、一族の中で圧倒的な発言力を持つメンバーがいる場合には、大半の意思決定を独断でも可能なため、経営の暴走や私物化を牽制する何らかの仕組みを一族全体であらかじめ合意しておかない限り、ファミリーガバナンスを意識しない一族となってしまいます。
 例えば、事業承継に際して、十分なガバナンス体制の整備が無いまま、特段コミュニケーションを取らずに株式の承継や経営の承継を形式的に行うと、一族と一族事業の経営陣、双方とのコミュニケーション不足が原因となり、後継者の事業経営の舵取りが困難になります。具体的には、先代のワンマン体制が影響し、非一族の経営陣と後継者の間で軋轢が生じることで、一族事業の企業価値を大きく毀損する恐れがあります。また、一族の内部においても、事業承継に伴う株式や現預金などの資産を巡る「争続」の発生も当然に想定されます。

 ファミリービジネスを所有する一族が、「お家騒動」として事あるごとに取り立てられるのは、こうした一族事業を支える一族株主を纏めるファミリーガバナンスの未整備が主因だと考えられます。残念ながら、問題が発生して、ようやくファミリーガバナンスが整備されていないことに気付かされますが、そのときは手遅れの状態となってしまっているケースが多いです。
 それ故、ファミリーガバナンスはその実態が見えにくい性質を有しているものの、ファミリービジネスを所有する一族にとっては一族事業の安定的発展に不可欠なコーポレートガバナンスのベースとなるのです。


ファミリービジネスのガバナンスの二重構造

 上述の通り、ファミリーガバナンスはコーポレートガバナンスと密接な関係にあることはお分かりいただけると思います。但し、両者の関係は横並びではなく、ファミリーガバナンスを基底にコーポレートガバナンスが存在するという上下の構造になっています。こうした関係性を多くの学術研究では「(ファミリービジネスの)ガバナンスの二重構造」と呼んでいます。

 下図の通り、一族及び一族事業の永続を目指すファミリーガバナンスにおいて、受託者は現在の一族株主で、委託者(兼受益者)は未来の一族株主となります。一族はその財産をスチュワードシップ(未来から資産を預かるという受託者としての責任)に基づいて守り、より良くして後継世代に受け渡していく責務があります。現在の一族株主は、一族やファミリービジネスの永続性を担保するために必要な、声を上げることのできない未来の株主や少数の一族株主への十分な配慮を怠りがちな点に留意が必要です。

図表 ファミリービジネスのガバナンスの二重構造

 このように強固なファミリーガバナンスとコーポレートガバナンスの構築を求められることが、ファミリービジネスの大きな特徴の1つです。なぜならば、一族の統治体制の良し悪しが、ファミリービジネスの業績の成否を決定してしまうからです。


ファミリーガバナンスの整備には

次に、ファミリーガバナンスを整備する手法を3点紹介いたします。

家族憲章

 家族憲章とは、一族のルールを記載した文書で、一族の理念・価値観や一族事業に係る株式承継の規定など、一族及びファミリービジネスを規律する様々な取り決めが書かれています。家訓とは異なり、家族憲章は一族間の絆を強め、一族間のトラブルを未然に防ぐ具体的な行動指針や判断基準が明記されているところに特長があります。

 家族憲章に関しては、別記事「家族憲章に意味があるのか?」をご参照ください。

  家族憲章に意味があるのか? 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


一族会議体

 一族会議体とは、一族とファミリービジネスに関する報告や意思決定、利害対立の調整、交流などを行う一族の集いです。一族の家族憲章を継続的に運用し、新しい一族メンバーにも常に共有する役割を担います。

 一族会議体は、一族総会(Family Assembly)、一族会議(Family Council)の2種の会議体から構成されることが一般的です。一族総会は、一族全体でのコミュニケーションを担う組織であり、企業で言えば株主総会に当たります。一族会議は、一族総会の委任や家族憲章の規定によって権限を与えられた、一族に関する実質的な審議と重要な意思決定を担う組織であり、企業で言えば取締役会に当たります。こうした会議体を目的に合わせて使い分けることで、ファミリーガバナンス強化に寄与します。


ファミリーオフィス

 ファミリーオフィスとは、家族憲章や一族会議体を実効性のある仕組みとして機能させるための組織です。一族の持つあらゆる資産を管理・運用・承継し、財務のみならず非財務の面からも企画・運営し、一族を支援します。

 ファミリーオフィスは昨今、大口の資産運用会社機能を専ら提供する組織であると、その役割が限定された形で認識されがちですが、本来は一族の価値観や活動の共有、一族の子弟教育、社会貢献活動の企画・実行など幅広い機能を携えています。

 詳細は別記事「ファミリーオフィスとは」をご参照ください。

  ファミリーオフィスとは 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


 ファミリービジネスを所有する一族にとって、一族と事業の距離が近い分、無意識の内に両者を同一視しがちです。特に創業世代では、一族と事業は一体不可分な存在であるといえるでしょう。しかし、世代を経るごとに、事業に関与しない株主の発生や所有と経営の分離といった形で一族と事業の間に距離が生じ始めます。このように両者が分離してからは両者の良好な関係なくして、両者に実りある成長は望めませんそして、こうした両者がスパイラルに持続的成長していく関係性の構築は一朝一夕ではできず、時には一族メンバー間や非一族の経営陣・従業員との衝突に立ち向かわなければなりません。こうした幾つもの障壁に対し、誠意をもって、且つ忍耐強く取組んで乗り超えることで、ファミリービジネスに携わる方々全てに幸福をもたらすことができるのです。スチュワードシップのミッションを目的に粘り強く一族一体性の強化に努めることが、ファミリービジネスから多大なる恩恵を受ける一族の永続的な責務なのです。

【参考資料】ファミリーオフィスについて

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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