一族による社会貢献活動の支援


目次[非表示]

  1. 1.事例概要と相談内容
  2. 2.取り組み方針
  3. 3.ご提案内容
  4. 4.一族の反応
  5. 5.まとめ

最近になって、SDGsの取り組みの一環として、企業が社会貢献活動に取り組む姿を目にする機会が多くなりました。しかし、SDGsが注目される以前よりファミリービジネスは、一族の一貫した利益分配哲学に基づいた縁ある地域への社会貢献活動に取り組む傾向がありました。


ファミリービジネスの継続的かつ一貫した貢献で、地域の発展・持続可能性が高まるだけでなく、事業もその地域のエコシステムの重要なアクターとして地域に支えられて共に成長し、その事業を支える一族も地域で特別な尊敬を得るにいたる事例が多く見られます。


本稿では、一族事業に対する関与の在り方を再考する中で、ファミリービジネスが一族による社会貢献活動を支援するに至った事例を紹介します。


事例概要と相談内容

製造業を営む創業者(69歳、代表取締役社長)には妻と子ども3人(長男A氏(38歳)、長女B氏、次女C氏) がおりました。A氏は、子3人の中で唯一、事業に従事し、経営にも参画しており、次期後継者として指名されています。残る娘2人は一族事業とは別の道を歩んでおり、B氏は音楽関係、C氏は大学院で研究者として活動しています。


A氏は、金融機関様の主催するファミリービジネスの次期経営者向けセミナーにて弊社のお話を聞いていただいたことを契機に、本格的に一族事業に対する創業家一族の在り方を考えるようになりました。A氏は「今後、「経営」と「株主」という側面から創業家一族が囚われてほしくない。例えば、長男だから経営者として承継しなくてはいけない、またはその期待に応えなくてはいけないなど経営承継を『義務』と考えてほしくない。自分自身、現在は事業を承継したいと思うようになっているが、一時は承継候補者として期待に応えなくてはいけないというプレッシャーを非常に感じていたことがあった。
また、創業家として承継していく株式を『負担』と考えてほしくない。妹たちも株式を承継する予定であるが、株式に対してどのように思っているかは分からない。今後、妹たちのように事業に関与していない一族も安定株主として存在してほしい。」と考えるようになりました。この想いを実現する仕組みとしてファミリーガバナンスの整備の検討をしたいと弊社にご相談をいただきました。


取り組み方針

一族と一族事業は支え合う関係性を有し、その関係性はらせん状のような成長曲線を描きます。A氏の「経営」と「株主」への想いに対しても同様に、創業家一族が事業を支える関係性を築くために、一族が自発的に一族事業を支える意識の醸成が必要です。そのため、本事例においては、一族が自発的に一族事業を支える意識を醸成した上で、事業を支えたいと思う一族がそれぞれの形で事業を支えることができる仕組みを構築できるよう取り組んでいく方針となりました。


ご提案内容

1.一族が一族事業を支えたいと思う意識を醸成するため、一族理念(一族が果たすべき使命・一族が一体性を維持する価値・一族が目指すべき姿など)を明文化し、一族が一族事業を支えることの目的や価値の理解・浸透を図る仕組みを整備します。

2.一族の一族事業に対する貢献の在り方とその貢献の対価としての恩恵を検討します。

  • 経営参画や事業会社に就業することだけが一族事業会社に対する貢献ではなく、安定株主として企業価値向上を図る役割を果たすことや株主として各世帯の意見をまとめる役割を担うことも重要な役割であり、一族事業への貢献となります。
  • 一族事業への貢献の対価としての恩恵には有形・無形それぞれがあります。有形の恩恵は、事業会社からの給与や株式の配当金などが代表的です。無形の恩恵は、創業家一族であることによる地域からの信頼や、事業会社を通じた人脈の広がりなどが挙げられます。こうした恩恵の享受方法は一族によって様々な形が検討でき、より一族事業を支えることの魅力を高めます。


A氏は一族事業への貢献に対する恩恵の享受方法について、3人兄妹がそれぞれ得意分野を持っているため、それぞれの自己実現を目指した取り組みが社会貢献活動につながるのであれば、その取り組みを一族事業が支援する形がよいと考えました。


一族の反応

ご提案させていただいた取り組みや進め方について、妹2名と両親にそれぞれ説明の上、意見や考えを伺うことになりました。


~妹2名の反応~
創業家一族として一族事業を支えることに対して理解を得ることができました。一族事業に対する貢献の対価として、自己実現を目指した社会貢献活動を支援してもらうことについても前向きな意見をいただき、下記の通りにそれぞれの社会貢献活動の案を出し合いました。


A氏:経営者として、自身の経験や知見を活かし、ベンチャービジネスの支援や創業家
同士のつながりの場を創出するための取り組み


B氏:音大や海外での活動経験を活かし、多くの方々が音楽と触れ合うことができる場
を提供する取り組み


C氏:自身の研究活動を通じ、研究者に対する支援の必要性を実感したことから、恵まれない研究者を支援する取り組み


~両親の反応~
両親に対しても今回の取り組みを説明し、了承をいただくことができました。これまで一族並びに一族事業を築き上げてきた両親への感謝と、これからも一族が事業を支えていくことを説明。今後の取り組みの一例に、一族が事業会社を支える貢献に対する恩恵として自己実現を目指した社会貢献活動を支援してもらうこと、並びにその内容を兄妹それぞれがお話しました。


まとめ

ファミリービジネスが永続するためには、一族と一族事業会社は互いに支え合う関係性を持つことが必要であり、この関係性をいかに設計して運用するかが肝要です。そして、一族が一族事業会社を支える対価として受け取る恩恵の享受方法も設計する事項の一つです。恩恵の享受方法を設計する理由は、享受する恩恵は単なる金銭の分配に限定されないからです。


今回の取り組みでは、目指すべき一族と一族事業の関係性の在り方を検討する中で、結果として一族事業が一族メンバーの自己実現を目指した社会貢献活動を支援することになりました。一族の社会貢献活動が一族事業会社の評判や信頼につながり、さらなる一族事業会社の発展につながることが期待されます。他にも、一族の教育支援や一族メンバーによる起業を支援することなども考えられ、一族に合った恩恵の享受方法を検討できます。


こうした取り組みを通じて一族と一族事業会社が互いに支え合う意義やメリットを理解し、一族に沿った仕組みを構築していくことが一族と一族事業会社の永続化には必要となります。

※ご紹介した事例は実例をもとにしたフィクションであり、登場する人物・団体等は実在する人物・団体等には一切関係ありません。

【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より一族と一族事業の関係性を考えることができます!



米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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