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家族憲章に意味があるのか?有効な活用方法をご紹介

家族憲章とは、一族(家族)のルールを記した文書です。守るべき一族の価値観・使命、事業を経営する一族として果たすべき地域社会への貢献の在り方、一族事業に係る株式承継の規定、一族事業への就業方針など、記載されるルールは多岐に渡ります。

しかし、ルールの根底にある目的は、後継世代に亘っても一族と一族事業が末永く繫栄する(=永続化する)ことです。こうした目的が抽象的であるため、家族憲章は本当に実用性があるのか疑問を持たれる方もいらっしゃるかと思います。

そこで、今回は家族憲章作成が一族にもたらす便益を具体的にお伝えしたいと思います。

【参考資料】

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目次[非表示]

  1. 1.家族憲章に意味はない?
  2. 2.家族憲章の二面性
  3. 3.活きたドキュメントにする


家族憲章に意味はない?

家族憲章では、例えば、一族内で株式を安定的に保有し続ける仕組みをより強固にすることを目的として、一族外への株式流出を抑止するための一定の法的拘束力を持たせる設計を検討することがあります。
しかし、家族憲章において精神的条項である一族理念にまで法的拘束力を期待することはできません。つまり、一族の理念や価値観といった、目に見えない資産を守るために一族が順守すべき行動にまで法的強制力を持たせることはできません。
即ち、家族憲章で一族の在り方に関して定めたとしても、それに反する行動を取ったことを直接的原因として、損害賠償金の支払いを命じるなどの強制力を伴う罰則を科すことができません。
 

では、一族の在り方に法的拘束力を持たせられないのであれば、家族憲章を作ることに意味はないのでしょうか?
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家族憲章の本当の価値は、一族がこれまで積み重ねてきた目に見えない資産(無形資産)を承継するツールであることです。
一族理念や価値観について、直接、口伝で指導を受けていないばかりか、家族憲章など文書化されたものを通じてすら引き継いでいない後継世代が、有形資産のみを引き継げば、その承継した有形資産に付随する無形資産を認識・理解することができません。

そして、無形資産に関する理解なしに、有形資産の真の価値を理解することはできず、一族の永続化に支障をきたす可能性が高まります。例えば、一族事業を承継することは、一族事業からもたらされる恩恵を受けられると同時に、一族と一族事業をより良いものにして次の世代へ引き継ぐ責務があるということを意味します。つまり、一族事業(ファミリービジネス)の株式という有形資産の承継だけではなく、創業理念や一族で重んじてきた価値観、株式承継者の責務など無形資産も確実に承継させることが重要となります
だからこそ家族憲章は、その末B手に法的拘束力がなかったとしても、無形資産の後継世代への承継という観点でファミリービジネスの永続化に重要な意味があると言えるのです。


家族憲章の二面性

家族憲章の作成には一族と一族事業を支える意志のある一族の主要メンバーの関与が求められます。そのため、まず家族憲章作成に参加すべき一族メンバーを決定し、その上で、それらメンバー間の討議を通じて一族と一族事業の永続化に必要な具体的項目を決めていきます。

このような討議を通じて具体的な 方針を決定する際の根拠の1つとなるものが精神条項であり、欧米ではfamily mission statement(一族の使命表明)として家族憲章に盛り込まれます。

また、各規定の背景に精神条項を組込むことで、規定を遵守すること自体が、一族の世代を超えた精神的結束を強化することに繋がります。

そして、後継世代がこうした規定を守ることで一族の事業を支え、一族の理念や価値観も同時に承継することで一族と一族事業の永続化に資するものとなります。家族憲章の構成に関しては、別記事「家族憲章の必要性とその効果的な構成要素」をご覧ください。


家族憲章は作成プロセス自体にも重要な役割があります。作成プロセスでは、家族憲章の完成という1つの目標に向かって一族メンバーが討議を重ねていきますので、その討議のプロセスは一族がお互いをより深く知る機会となります。特に、同じ屋根の下で暮らしたことがない3代目以降の世代がこうした討議を通じ、互いの理解を深め、一族のアイデンティティを強化することは特に重要な意義を持ちます。

家族憲章の作成を通じて、自分以外の一族がどのような考え方をもち、どのような能力を持ち、どのようなことを一族に望み、また、一族事業ではどのような役割を担いたいと願っているのか聞くことで一族への理解と絆が深まり、一族内での自分自身の果たすべき役割が見えてきます。そのことは結果として、一族の一体性強化に繋がり、一族と一族事業の永続化において重要な役割を果たします。


活きたドキュメントにする

家族憲章の作成さえすれば、一族と一族事業の永続化が実現できる訳ではありません。家族憲章を作成しても利用されず、埃をかぶるような状態では意味がありません。作成後も一族会議体を通じて、作成メンバー以外の幅広い一族に、その内容を継続的に啓蒙し、浸透させ、刷り込んでいくということが求められます

特に、家族憲章の作成に直接関与していない世代にも、家族憲章を理解させ、そこに込められた願いを伝え続けるには、意識的な努力を継続的に行うことが必要です。その意味でも、後継世代が、家族憲章の内容が一族会議体を通じて実践され、生きたドキュメントとして活用されていくのを見る経験は有効です。

同時に、家族憲章を受動的に受け入れるだけでは、受託者責任(=スチュワードシップ)の責務を果たすことになりません。一族の現況や経営環境を踏まえて、随時修正することが求められ、時代ごとに家族憲章を修正し、改訂していくことが求められています。その過程が無ければ、一族と一族事業の永続化を果たすことが困難になるからです。

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家族憲章に生きたドキュメントとしての意味を持たせるには、完成に至るプロセス、完成品としてのドキュメント、そして、完成後の一族会議体を通じた継続的な運用が必須です

一族の大半の人々が家族憲章に意味はないと感じた瞬間に一族と一族事業を永続化する枠組みは危機に瀕していると言っても過言ではありません。日々の地道な努力が要されますが、それこそが永続化という大きな目的を実現する確かな道標となります。


【参考資料】​​​​​​​

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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