家族憲章を活用できる主な一族の例

家族憲章の導入を積極的に検討すべき一族は、一族と一族事業(=ファミリービジネス)の持続的成長がもたらす永続化の価値を真に理解している一族です。家族憲章を導入すべき一族は現在、事業経営している一族のみだと限定して考えてしまう方もいらっしゃるかと思います。しかし、家族憲章の持つ本質的な効用を考えると、その作成対象となる一族はより広い範囲に及ぶのです。

そこで今回は、家族憲章を活用できる一族をより広範な3つのタイプに分けてご紹介したいと思います。家族憲章の果たす役割に関しては、別記事「家族憲章に意味があるのか?」を併せてご参照ください。

  家族憲章に意味があるのか? 株式会社青山ファミリーオフィスサービス

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目次[非表示]

  1. 1.例①:ファミリービジネスオーナーの一族
  2. 2.例②:事業を売却された一族
  3. 3.例③:不動産所有オーナーの一族


例①:ファミリービジネスオーナーの一族

第1のタイプの一族は、基本形ともいえる事業を所有する一族です。一族の象徴である事業は、事業のもつ資産だけが事業の繁栄に寄与しているわけではありません。事業を所有する一族がもつ資産、特に、価値観や人脈、評判といった目に見えない資産(=無形資産)が一族事業の富に「創出のエンジン」として機能します。つまり、一族事業の富の源泉は一族のもつ無形資産に起因するのです。

その無形資産を後継世代に遺してこそ、後継世代は一族の富を守り、増やして、更なる次の世代に引き渡す役割を担うことができます。それ故、家族憲章を活用できます。今回はその詳細をご説明することは割愛させていただきますが、詳しく知りたい方は、別記事「家族憲章が必要な一族」も併せてお読みください。

  家族憲章が必要な一族 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


上述からご理解いただけるように、家族憲章を作成するには経営者や一族の長などの一族の代表者だけではなく、将来の一族を支える一族全員が一丸となって取組むことが求められているのです。一族と一族事業が永続化することの持つ高い価値に共感できるメンバーは、たとえ一族事業に直接関与していなくても、家族憲章の作成に携わることで、一族と一族事業を支える役割を担えます


例②:事業を売却された一族

第2のタイプの一族は、一族事業を第3者に売却した一族です。すなわち、(事業の)譲渡オーナーの一族です。後継世代が一族事業とは別の事業に専念している、業績不振や人材不足、自身の健康面が要因となって事業を続けていくことが厳しいなど、事業を継続したくても継続できない一族が今後、益々増えていくことは皆さんもご承知のことでしょう。

このような一族が成功裡に事業を売却した際には、多額の資金を一瞬で手に入れることになります。事業を経営されてこられた当世代にとって、事業の売却対価はそれまでの過去の世代にも渡る努力が反映された成果です。

その価値を自分たちの世代だけで、社会で有機的な役割を担っていた一族事業に代わり、無機質なお金だけにして受け取ることには躊躇いがあります。さらに、一族の無形資産を伴わない無機質のお金だけを承継されても一族の永続化は望めません。お金は一族の無形資産があって、初めて活かされるからです

一般に、事業を所有している一族と譲渡オーナーの一族では、後継世代へ相続・贈与をするときにその相違点が顕著に表れます。一族事業を売却して単にお金を受け取った後継世代の場合、特に、一族事業への関心が低かった子どもや事業経営を行っていた当世代の経験を直接に教わることができない未来の世代は、一族が資産を生み出すことができたプロセスや背景(=無形資産の一種)を自ずと知ることはできません。それ故、目に見える金銭的評価(富の活動結果)ばかり着目してしまい、一族のもつ無形資産(=富の源泉)を蔑ろにし、結果として、有形資産そのものを大きく棄損することになります。

後継世代がそのような過ちを犯さないためには、当世代の価値観やエピソードを遺すことで無形資産の価値を理解してもらいます。そして、一族の価値を重んじた具体的な行動を継続的に起こせるように、一族の一体性を強化する仕組みの整備が必要となります。家族憲章や一族会議体はそのための仕組みなのです。


例③:不動産所有オーナーの一族

第3のタイプの一族に不動産所有オーナーの一族があります。本稿においては、不動産賃貸業以外の事業を当世代が所有・運営した経験が無く、かつ、主たる資産として不動産を所有している一族と定義させていただきます。先祖代々の土地を守っている一族がその代表例です。

一族事業という一族を媒介する器がないため、この第3の類型の一族は先の2種の一族に比べ、一族事業を通じた社会課題解決といった意識は希薄であることがほとんどでしょう。

しかし、相続・贈与において、不動産を巡る一族間の争いは多くみられます。その1つの要因が金融資産と異なり、不動産は分割して後継世代に引き継ぐことが相対的により難しい点が挙げられます。また、現在、一族で共有不動産を保有し、その解消や第三者に売却する際に、トラブルが生じることもこの類型に属する一族の相続問題の典型例でしょう。

いずれにしても、先祖が遺した不動産を自身の子どもや後継世代に遺せないことに後ろめたさを感じながらも、手放すことが一族の長期でみた資産戦略に最善の策である場合、その対価として金銭を得るだけでは不十分です。同時に一族の理念や大切にしている価値観を家族憲章にすることで、先祖が遺した資産や想いを一族間で話し合い認識し、結果として後継世代に伝える契機にすることが求められます

また、一族が不動産を所有することで保持できた繋がりを弱体化、あるいは喪失することを防ぐ点においても、家族憲章は効力をもたらします。一族の理念や価値観を明確な一族のアイデンティティとする家族憲章の継続的な運用を通じて、一族の絆をより強固にし、それが結果として一族(及び一族の不動産事業)の持続的繁栄に繋がります


このように、家族憲章は必ずしも事業を持つ一族のみが対象ではなく、一族の持つ有形・無形の資産を後継世代に遺したい強い想いがある一族には効果的なドキュメントになり得るのです。勿論、一族の事情により家族憲章で定める文言や運用体制は異なります。しかし、根底にあるコンセプトや一族の絆の永続を望むという目的は全ての一族に共通するのです。

【参考資料】​​​​​​​

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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