ファミリーオフィスの種類
ファミリーオフィスとは、一族のあらゆる資産(金銭や不動産だけでなく、一族の持つ知識や経験、人脈などの無形の資産を含む)を管理・運用することを通じ、一族と一族事業(=ファミリービジネス)やその富の持続的な成長を支援する組織です。今回はファミリーオフィスの3つのタイプに整理し、各々の特徴をご説明することで、目指すべきファミリーオフィスの運営のイメージをより明確にできれば幸いです。
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シングル・ファミリーオフィス
第1に、一族が自らの専用ファミリーオフィスを設立して運営するスタイルです。これをシングル・ファミリーオフィスと呼びます。
一族に関するルールを自分たちで決め、自分たちのニーズにカスタム化して運用していくことは理にかなっています。しかし、資産管理・運用、教育、社会貢献活動などあらゆる機能を一族で担わなければならないため、自分たちが不足している分野のプロフェッショナルを招いて運営することが一般的です。
それ故、結果として、一族のコストセンターに近い性格を有することになるため、収益性の面から資産規模が比較的大きい一族(欧米においては、少なくとも数百億円以上の資産を持つ一族に多くみられます)が採用しているタイプです。
マルチ・ファミリーオフィス
第2に、ある一族が設立し、現在も主たる顧客(これをアンカークライアントと呼ぶ)として存在し続けるも、そのサービスを他の一族に収益事業として提供するもので、結果として、複数の一族での資産管理・運用することになる形態です。性格としては、シングル・ファミリーオフィスの機能にプロフィットセンターの要素を加えたものとイメージしていただければと思います。
自らの一族のみを対象にしたシングル・ファミリーオフィスに比べ、扱う資産規模がより大きくなるため、預り資産あたりの事業運営コストが下がり、同時により巨額な資産を運用することで、多様な投資機会が提供され、そうでないときに比べ、より高いリターンが期待できます。こうした経済上のメリットがファミリーオフィスを設立した一族がマルチ・ファミリーオフィス化する理由の1つです。
加えて、優秀な人材を採用し引き留めることも理由として挙げられます。シングル・ファミリーオフィスのように、コストセンターでは魅力ある水準のボーナスを提供できません。また、マルチ・ファミリーオフィス化することにより多額の資産を多様な一族のニーズに対応することは、ファミリーオフィスに携わる人間にとってより知的なチャレンジングであり、自己成長の機会となるからです。
しかし、ファミリーオフィスに加わる一族は受け身の姿勢ではいけません。アンカークライアントにとっても、魅力のある一族でなければ当然に自分たちのファミリーオフィスに参加させようとは考えません。魅力があるための条件とは、資産規模や社会的地位だけでなく、その一族がどのような価値観をもち、何を目指しているのか、といった要素も重要な判断軸となります。さらに、複数の一族が集まることは資産運用以外の面においても大きな効果をもたらします。例えば、各一族が持つノウハウをお互いに活用することで、自らの一族だけでは到底実現できない別領域からの成果を出すことも可能です。
しかし、ファミリーオフィスの重要な機能であり、資産運用など金融・税務分野以外の一族の一体性強化や一族教育などに関するサービス分野では、マルチ・ファミリーオフィスサービスには限界があるため、欧米でもこうしたサービスを1つの一族だけに提供するプライベートオフィスサービスをマルチ・ファミリーオフィスサービスとセットで利用するケースが多いと言われています。
マルチ・クライアント・ファミリーオフィス
第3に、シングル・ファミリーオフィスを設立する資産規模ではないものの、世界の有数の富裕層同様のファミリーオフィスのサービスを受けたいと願う富裕層一族を対象にサービス提供するタイプがあります。これはマルチ・クライアント・ファミリーオフィスと呼ばれています。上述の2つのファミリーオフィスとは異なり、運営主体が金融機関や資産運用業者となります。性格に関しては、アンカークライアントが1つもない純粋なプロフィットセンターと言えます。
留意すべきことは、ファミリーオフィスサービスを提供する第3者機関とファミリーオフィスの構想を練る際に、こうした第3者機関が委託者でありながら一族の主体性を重宝しているのか、また、伴奏者としての役割を果たしてくれるのか、見極めることです。
どのタイプのファミリーオフィスが自らの一族に適合しているのか検討する際には、何を達成するためにファミリーオフィスが必要なのか明確にすることが、まず求められています。一族と一族事業を永続化させるには、ファミリーオフィスを通じて、何を守り、増やし、創るのか整理することが重要です。
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