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ファミリービジネス(同族経営)の成功・失敗要因

ファミリービジネス(=同族経営、一族事業)は、所有者である一族に権限が集約しやすい傾向にあるため、大きな損失や不祥事が公になると、残念ながら事業だけでなく、一族に対する非難も浴びやすいことが実情です。ファミリービジネスを所有する一族は、企業に直接関わらない事柄でも、常に社会から評価されていることを肝に銘じて活動しなければなりません。

今回は、ファミリービジネスの成功と失敗を左右する大枠の代表的な条件に関してご説明することで、一族とファミリービジネスの永続化の実現に少しでも参考になれば幸いです。

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目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスが失敗する要因
    1. 1.1.組織戦略の軽視
    2. 1.2.経営変革への億劫さ
  2. 2.ファミリービジネスが成功するには
    1. 2.1.ファミリーガバナンスの整備
    2. 2.2.コーポレートガバナンスの整備


ファミリービジネスが失敗する要因

組織戦略の軽視

ファミリービジネスでは、持ち株比率や意思決定フローにおいて、オーナー一族が圧倒的な支配力を有しているケースが多くみられます。こうした体制により、非ファミリービジネスに比べた際のファミリービジネスの強みとして、意思決定の速さや中長期の事業戦略を一貫して実現しやすいことが挙げられます。

しかし、一部の権力者による支配が軋轢を生みやすいことも自明です。それ故、限られた一族メンバーによる統治が一族事業内での反発を招き、企業価値の毀損、一族の持つ資産の喪失を招くケースはファミリービジネスの典型的な失敗パターンと言えるでしょう。


経営変革への億劫さ

上記の通り、ファミリービジネスでは発言力のある創業家一族が、経営の中枢を担う体制が多く、1人の経営者が数十年以上も経営トップであり続けることが特徴としてあります。それ故、特定の分野のみで成功している場合や圧倒的な市場シェアを獲得している場合において、ファミリービジネスの経営者は、自身が構築したビジネスモデルを変える動機づけが困難となります。

しかし、製品・商品のライフサイクルモデルでみられるように、変化無くして売れ続ける商品やサービスは存在しません。事業が成功していて、かつ上記の組織戦略が未整備なファミリービジネスほど、経営変革への対処が遅れ、気付いたときには、既に競争力を失ってしまう恐れがあります。


ファミリービジネスが成功するには

こうした失敗要因を引き起こさないようにするには、事業そのものの競争力は当然に重要です。しかし、ファミリービジネスには、非ファミリービジネスにはない固有の成功要因もあり、これこそがファミリービジネスの特長を最大限に活かし、差別化に繋がるのです。

ファミリーガバナンスの整備

ファミリービジネスを所有する一族において、事業に携わる者とそうではない者では、一族及びファミリービジネスへの意識の差は生じやすいです。しかし、一族が受ける様々な恩恵は一族事業からもたらされるもの(配当、評判、信用など)も多く、それは事業への関与度合いには必ずしも比例しません。それ故、一族事業で働くことはできずとも、一族及び一族事業を支える意思を持ち、間接的に携わり、一族の絆を強固にする体制を構築することが重要です。

具体的には、社外取締役として一族事業に関わることが1つの方法です。それにより、一族事業の状況を包括的に把握し、一族及び一族事業双方にとって価値のある経営活動を促すことができます。また、一族株主として、一族の正式な集まりを企画・参加することも有効です。こうした集まりでは、事業に携わる一族メンバーから一族事業の現状や今後の方針などに関して定期的に報告を受け、一族のビジョンと整合性のある施策であるか否かを判断し、大株主としての意思を一族事業に伝える役割を担います。さらに、一族事業にとって特に重要な意思決定(新規事業や合併、解散など)をする際には、事前に一族会議体を開催することも求められています。

詳細は、別記事「ファミリーガバナンスとは」に記載しておりますので、併せてお読みください。

「ファミリーガバナンスとは」

コーポレートガバナンスの整備

コーポレートガバナンスは、昨今のコーポレートガバナンス改革をはじめ注目を浴びており、企業経営において、益々その重要性が増しています。コーポレートガバナンスを理解するには、「コーポレートガバナンス・コード」が要請している「守り」と「攻め」の2つの側面で考えることが望ましいです。

「守り」のガバナンスとは、企業の意思決定の透明性と公平性の確保を要請し、経営者による暴走リスクや私物化リスクの抑制を求めており、主に内部統制などのコンプライアンスルールで対応しています。一方、「攻め」のガバナンスとは、持続的な企業価値向上に資する経営行動を求めています。

コーポレートガバナンス改革は上場企業を対象としていますが、市場において非上場のファミリービジネスは上場企業と競争している以上、現在、資本市場で推進されているコーポレートガバナンス改革の影響から非上場のファミリービジネスも自由ではありません。これまでファミリービジネス固有の強みと言われていた長期戦略の実践という特長も、コーポレートガバナンス改革で上場企業が長期視点での経営を求められるようになり、今やその相対的な優位性が揺ぎ始めています。それ故、ファミリービジネスにおいても、特に「攻め」のコーポレートガバナンス強化が求められており、それを実践できるか否かが成長力を大きく左右します。

具体的には、取締役会の活性化が挙げられます。取締役会は、本来、全社戦略に立った長期視点での経営判断を担います。しかし、ファミリービジネス(特に、非上場)では、所有と経営が一致している傾向が強いこともあり、各事業部門の判断がそのまま、取締役会の判断に繋がりやすいことが実態です。また、非一族の社外取締役や一族メンバーとは馬が合わない人材を取締役に登用することも避けがちであるため、全社戦略の策定に望ましい組織体制を確立できている企業は多くありません。

詳細は別記事「コーポレートガバナンスとは」をご参照ください。

「コーポレートガバナンスとは」


ファミリービジネスの成功・失敗を左右するのは、諸々の要因が考えられるものの、ファミリービジネスを所有する一族が一族及び一族事業に対して、どのように向き合うのかということに集約されます。一族メンバー及び一族全体の利益に加え、一族事業の利益、顧客や従業員、取引先、地域社会などに対する利益も考慮しなければなりません。

長い道のりではあるものの、密なコミュニケーションを通じて着実に歩み続けることでファミリービジネスの経営を成功に導くことが実現します。

【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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