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同族経営を成長させるには|大企業2社を交えて解説

ファミリービジネス白書(2022年)は、上場企業(東証)の50%以上がファミリービジネスであると推計しています。しかし、ファミリービジネスはその規模や業種は千差万別で、個々の企業を取り巻く具体的諸事情を考慮せず、他のファミリービジネスの一般論を個別企業に対して安易に当てはめることは妥当ではありません。


今回は、むしろファミリービジネスの成長過程に焦点を当ててご紹介することで、自社の成長戦略を考える契機として頂ければ幸いです。

【参考資料】ファミリーオフィスについて

下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!


目次[非表示]

  1. 1.同族経営の成長過程ごとの特徴
  2. 2.同族経営の大企業の例
    1. 2.1.①トヨタグループ
    2. 2.2.②サントリーグループ


同族経営の成長過程ごとの特徴

ファミリービジネスは、一般的にその事業規模によって、家族経営(小規模事業者)、中小企業、大企業の3つに分類されますが、本稿ではファミリービジネスの成長を妨げる特徴的課題に着眼するため、規模ではなく企業の発展ステージごとに生じる株主・一族・経営者の間に生じる人的な対立が経営にもたらす課題を分析していきます。


通常のファミリービジネスは、家族に少数の非一族の社員を加えた小規模事業者として創業します。その後、創業時の苦労を乗り越え、徐々に売上を伸ばし、知名度を上げ、信用を構築しながら、非一族の社員や経営人材を拡充し、オーナーがリーダーシップを発揮し牽引する形で中小企業へと成長します。こうしたプロセスを通じて中小企業がやがて地域の名門企業としての地位やブランドをてこに、他地域や他業種・業界へ進出し、ついには大企業へと成長を遂げていきます。
ここで、ファミリービジネスに関与する利害関係者を図式化したスリーサークルモデル(※)に、上記の3つの発展ステージを当てはめてみます。


■スリーサークルモデル

スリーサークルモデル


※スリーサークルモデルは、ファミリービジネスに携わる人物を株主、一族、経営の3つの属性に照らしてプロット(全7つのタイプ)し、それぞれの立場の特徴とその立場が生み出す人間関係を整理することに資する分析フレームワークです。こうしたフレームワークを用いることで、ファミリーに関わる多様な利害関係者の潜在的利害対立を予見し、タイムリーに対処することが可能となります。
詳細は別記事「ファミリービジネスとは?同族経営の成功要因を解説」をご覧ください。


家業としてスタートしたファミリービジネスは、当初「株主=一族=経営」と3つの役割が1つに重なっているため、事業に係わる関係者利害対立の可能性は極めて限定されています。しかし、それが中小企業へ成長するにつれ、非一族の経営幹部が現れたり、非同族の株式保有者が現れたりすることで、スリーサークルモデル上の様々な立ち位置によって相対立する利害関係が生まれ、関係者の潜在的な利害対立の構造はより複雑になってきます。


そして、大企業へ成長するに至ったときには、非一族の株主や経営人材だけでなく、ファミリービジネスに関与しない創業家一族のメンバーも増え、3つの円にプロットされる人物がますます増えていきます。このようにファミリービジネスの成長過程において、単に規模拡大が生じるだけでなく、ファミリービジネスに携わる人物の利害関係はその複雑さを増す傾向にあります。こうしたファミリービジネスの一族を取り巻く利害関係の複雑さの高まりがゆえに、高度な企業経営管理のみならず、一族の一体性管理の実践が求められ、その巧拙が一族事業の持続的発展に直結することになるのです。


同族経営の大企業の例

上述のような成長過程を経て、大企業として運営されている同族企業は、下記2社の例のように、我が国においても数多く存在しています。


①トヨタグループ

トヨタグループは、持株比率はわずかになったものの、創業家の影響力という点でみれば日本のファミリービジネスの代表格といっていいでしょう。グループの主要会社であるトヨタ自動車㈱では、創業家が社長や会長職など主要な役員を多数輩出し続けています。トヨタグループの特徴は、創業家一族は少数株主でありながらも社内外に大きな影響力を保持し続けていることにあります。長らく代表取締役社長を務め、2023年4月より代表権を持つ会長を務める豊田章男氏の持株比率はわずか0.1%程度(有価証券報告書[2022年3月期]より)ですが、創業家一族として一族理念の継承者の責務を果たし続けています。


②サントリーグループ

サントリーグループは、トヨタグループと異なり、非上場の同族経営の大企業です。サントリーグループは創業120年を超え、創業家である鳥井家と佐治家が、全グループ企業を管理するサントリーホールディングス㈱(旧:サントリー㈱)の歴代社長を務めてきました。2014年に、新浪剛士氏が非一族として、初めて同社の代表取締役社長(現任)に就任したものの、引続き創業家一族は経営執行に関与しています(サントリーホールディングス㈱の代表取締役会長に佐治信忠氏、代表取締役副会長に鳥井信吾氏、代表取締役副社長に鳥井信宏氏が就任しています)。サントリーグループは、非一族の代表取締役社長を登用しつつ、創業家一族が強い結束力のもと、ファミリービジネスの経営への関与を維持している好例と言えます。


今回は、同族経営の成長過程ごとの特徴と、大企業を運営する同族経営の代表例を紹介しました。大企業へと成長しながらも同族経営を続けるには、創業家一族の立ち振る舞いが肝要となります。多様な利害関係者の利益を念頭に置いた企業経営や創業家一族が果たすべき社会的使命などを明確にし、企業及び一族の存在理由に則った誠実な言動がファミリービジネスを大企業へと成長させる要因ではないでしょうか。

【参考資料】ファミリーオフィスについて

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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