【事例】家族憲章の効果-問題が顕在化する前の予防策-
今回のテーマ
同族経営の企業でたびたび報道される親族内紛争。報道されるのは大衆の話題を集めるということから主に有名上場企業のお家騒動ですが、非上場企業でも同様に紛争は生じているものと推察されます。
本稿では、こうした紛争を後継世代で生じさせないための予防策として、「家族憲章」の役割について事例を通して紹介します。
事例
概要と相談内容
今回取り上げるのは、ある企業の創業者A氏のケースです。A氏は65歳を迎えた現在もご健全で、代表取締役社長として事業経営の中核を担っており、事業は順調に推移していて、今後も利益を積み重ねていくことが予想されています。
A氏には妻と息子1人、娘2人がいますが、息子は独身で事業に全く関わっていません。2人の娘はいずれも既婚であり、長女の婿が取締役として一族事業に関与し、将来、A氏の後継者となる予定で、次女も従業員として事業に携わっています。一族は年末年始に必ず集まり、良好な関係を築いています。
A氏は、相続対策として自社株式を長女の婿を中心に承継し、その他の資産を3人の子供たちへ均等に分割するための準備を済ませています。
一方で、長女の婿に承継した自社株の価格上昇や配当など将来生み出す価値によって、実子との間で、承継された資産価値に差が生じることが予想されます。このことが引き金となり様々な一族間の問題を誘発し、仲の良い姉弟の関係が将来崩れてしまうことをA氏は懸念しています。
「これまで一族の仲は良好に保つことができているため、これからも永続的に一族は仲良く協力し合ってほしい」とA氏は願っており、ご自身や奥様が亡くなった後も、この円満な一族間の関係性を継続するにはどうしたらよいか悩まれておりました。
そんな折に、家族憲章という、一族の一体性を強化するドキュメントについて、同じファミリービジネスの経営者であり、古くからの友人でもある方から話を聞き、当社に問い合わせをしたとのことでした。
目的
A氏と当社の面談では、まず家族憲章を作る意義・目的をご説明させていただきました。大事なことは、家族憲章の完成を目的にするのではなく、家族憲章の作成を通じて「一族が事業の永続化を目標にし、共に支え合うことがどのような価値を持つのか」、そして「その実現にはどんな考え方や行動規範が必要か」を心の深いレベルで共有するため、一族間コミュニケーションをとり続けることを目的にするということを私たちはA氏と確認しました。
詳しくは、「家族憲章に意味があるのか」をご参照いただけますと幸いです。
ポイント
一族全員が揃って家族憲章の作成を進める
家族憲章を作成するプロセスを共有することは、創業者や創業者により近い方々の生の声を感じながら、家族憲章に込められた背景を理解することができる絶好の機会です。
今回、一族の数が多くないこと、一族が容易に集まることができることの2点を踏まえ、憲章作成時には一族全員が集まり、憲章一文ごとに込められた意味を一族全員が理解できるように作成することを提案しました。
一族で公式なコミュニケーションを取り続ける
実際に、家族憲章の作成を通じて、一族全体で協議すべき事項が浮き彫りになりました。
例えば、現在行っている社会貢献活動。今後も貢献活動を継続するにあたり、誰が中心となって取り組むのかを検討していくことになりました。他にも検討事項はあり、今後、年4回定期的に一族全員で集まり、協議していくことになりました。
今回の事例は、現在一族の仲は良好であり、当面親族内紛争の心配はないからこそ、この関係性を継続させ、将来に亘っても一族内で紛争が起きないようにするため、家族憲章を作成したいという相談から始まりました。
しかし、家族憲章の完成が最終目的ではありません。家族憲章をもとに、一族や一族事業を考えるため、公式なコミュニケーションの場に一族が継続的に集まることこそが、本当の意味で親族内紛争の予防に繋がるのです。
※ご紹介した事例は実例をもとにしたフィクションであり、登場する人物・団体等は実在する人物・団体等には一切関係ありません。
【参考資料】 ファミリーオフィスについて |