ファミリービジネスと後継者不足問題

後継者問題はファミリービジネスの存続に直結する重大な問題であり、近年その問題は経営者の高齢化により、さらに差し迫ったものとなっています。それを表すデータとして、経営者が70代の企業の後継者候補が未だ決まっていない企業が3割以上にのぼるという統計があります(帝国データバンク「特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2022年)」)。

このようにファミリービジネスで後継者問題が深刻化している代表的な理由として、少子化による後継世代の人口の減少と豊かな教育を受けた後継世代の職業選択の自由への希求、VUCAといわれる不透明な経営環境下での事業継続に対する不安の増大、などが挙げられています。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスが後継者選定にあたって囚われている暗黙の前提
    1. 1.1.暗黙の前提①:社長家の直系から後継者を輩出
      1. 1.1.1.ファミリービジネスを一族が承継していく意義
      2. 1.1.2.暗黙の前提①の対応策
    2. 1.2.暗黙の前提②:後継者の役割を経営執行者に限定
      1. 1.2.1.暗黙の前提②の対応策
  2. 2.最後に

ファミリービジネスが後継者選定にあたって囚われている暗黙の前提

こうした環境要因に対応するためには、事業承継の2つの「暗黙の前提」について再考することが有効です。一つ目は、社長家の直系から後継社長を輩出するという前提、二つ目は、後継者は経営執行者でなくてはならないという前提です。

本稿では、これら2つの暗黙の前提について、その内容と対応策について論じていきます。


暗黙の前提①:社長家の直系から後継者を輩出

前述の環境要因からわかる通り、ファミリービジネスの経営者は以前より少ない母数の中から経営能力のより高い後継者選定を迫られる構造的課題に直面しています。

しかし、一族全体を客観的に見渡せば自分の兄弟の子供などに後継者候補となりえる人材がいるにもかかわらず、自分の子供に後継者候補を限定して考えてしまうため、結果として後継者難に陥っているのではないでしょうか。

ここでファミリービジネスの経営者に求められているのは、後継者候補を社長の直系の子弟に限定するだけでなく一族全体の子供達から輩出するという発想の転換と、そのための具体的な方法論です。

その具体的方法の妥当性を論じるには、その手段たる方法論が目的からみて妥当かを考える必要があるはずです。そのためには、そもそもファミリービジネスを永続させることの意義について正しく理解することが重要です。


ファミリービジネスを一族が承継していく意義

ファミリービジネスを所有する一族は、一族事業会社の成長を通じて有形・無形の資産を築きその恩恵を得ています。有形資産とは金銭や不動産などの換金可能な資産であり、無形資産とは金額に換算することができない資産のことです。

例えば、取引先や地域からの信頼や評判など、もはや個々の一族メンバーに属しているとはいえず、代々の世代に受け継がれて一族が総有している、また世間から頂いている特権的な商売上の地位なども「社会関係資本」と言われ、この無形資産に含まれます。

特に無形資産は、一族が社会から受ける一定の信用・信頼が一族にとって様々なビジネス機会等の創出に繋がり、さらに有形資産の価値向上にも繋がっているという点でも重要な資産です。

つまり、ファミリービジネスは一族にとって有形・無形の富を形成する機能をしているのであり、ファミリービジネスに責任をもって能動的に関わることは、事業に関わる一族にとって大きなメリットになると言えます。

下記の記事中の「事業を持つ一族における永続化の価値とは」の部分において永続化について詳しく述べられていますので、ご参照頂きたく存じます。
『ファミリーオフィスが必要な理由』記事はこちらをクリック

暗黙の前提①の対応策

一族から後継者を輩出するためには、まず一族がファミリービジネスに責任をもって能動的に関与することのメリットを正しく理解し共有することが必要です。

具体的には、一族の主要な構成員(例えば一族株主)が集まり一族会議を開催し、改めてその一族と一族事業の歴史を振り返り、当世代がどのような有形・無形の資産を保有し、一族が共に助け合いながら事業に関与していくことのメリットなどを話し合い、確認し、一族として今後の事業へどのように関与していくかという基本方針を統一していくことです。

その話し合いの中で明らかになった一族としてのミッション(存在意義)・ビジョン(ありたい将来の姿)・バリュー(判断・行動基準)や、今後の意思決定の方針などは、家族憲章として取り纏められ、その後の一族運営に活用をされていきます。

このように、一族全体から後継者を輩出しようと思えば、一族全体として事業へ関ることの意義を一族で確認し、方針を統一して一族間で密なコミュニケーションをとり続ける、つまりファミリーガバナンスを構築することが必要となります。

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暗黙の前提②:後継者の役割を経営執行者に限定

ファミリービジネスの経営者が後継者選定にあたりもう一つの暗黙の前提が、後継者は経営執行者でなくてはならないという前提です。多くの非上場ファミリービジネスは創業家株主が代表取締役として最良の経営執行者としての役割も行う、いわゆる「所有と経営の一致」と言われる形態で経営が行われています。

しかし、外部環境は厳しさを増しており、また優良なファミリービジネスであるほどその企業規模や事業範囲が拡大し、経営執行者に求められる能力は高まる傾向にあります。
このような中で、一族から代々経営執行を担い、企業を成長させる経営執行責任者を輩出し続けることは非常に困難と言えるでしょう。

ここでも必要となるのは、一族の役割を経営執行者に限定しないという発想の転換と、その具体的な方法論です。

暗黙の前提②の対応策

後継者選定を考えるにあたり、後継者の関与の在り方をより柔軟に検討します。具体的には、代表取締役を任せる人材のみを考えるのではなく、株主として経営執行を監督する、又は経営執行を行わない取締役として一族事業のガバナンスを担う人材を含めることで選択肢を広げて検討します。つまり、一族が株主として所有し、経営執行を行わない形態を含めて事業承継の形を拡張して検討するのです。

例えば、一族株主は事業承継において、次世代が若いもしくは経験が浅いなど、直接的に経営承継ができない場合あるいは次世代に経営承継を期待できない場合であっても、その次の世代以降に期待できるのであれば、一旦は所有と経営の分離をしたうえで非一族のプロ経営者を間に挟む形で後継世代へ事業を承継することも可能となります。

下記の記事中の「所有と経営の分離を考慮した事業承継」の部分において詳しく述べられていますので、ご参照頂きたく存じます。
『ファミリーオフィスが事業承継で果たす役割』記事はこちらをクリック


最後に

今日ファミリービジネスの経営者は、後継者選びが難しい状況に置かれていることは間違いありません。しかし、本稿で述べたように、後継者候補の範囲を極力幅広い一族から選び、かつ後継者の一族事業への関与の在り方の選択肢を広げることで、ファミリービジネス永続化の蓋然性を高めることができます。

ファミリービジネスの超長期的な視点からマルチステークホルダーへのバランスの取れた利益分配を行うことができる特徴は、社会の持続的な成長に重要な役割を果たしています。本稿が後継者選びに悩む経営者様の一助になり、一つでも多くのファミリービジネスの永続化に繋がれば幸いです。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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