事業承継の判断基準とそのアプローチ
目次[非表示]
- 1.承継方法を判断するアプローチを見直してみませんか
- 2.本来あるべき事業承継の判断基準
- 2.1.①事業の本源的競争力分析
- 2.2.②一族における後継人材
- 2.3.③会社の規模
全国企業「後継者不在率」動向調査[2022](帝国データバンク)によりますと、後継者候補の属性割合において「非同族」が調査開始以来初の首位となりました(36.1%、前年比+2.9%)。同時に、「子供」の割合が大きく低下しました(35.6%、前年比-4.8%)。
また、承継を実施した企業をみますと、先代経営者と承継者の関係性として「同族承継」の割合が低下(34.0%、前年比-4.7%)する一方で、近年上昇している「M&Aほか」による事業承継は初の20%超えという結果になりました(20.3%、前年比+1.7%)。
我が国の法人の9割以上がファミリービジネスといわれている中、一族以外へ事業承継するケースが増加している結果となっています。本稿ではこの結果を受け、非同族への事業承継という判断が、必然的要因によるものであるか否か、また安易に行われていないか、一族事業の永続化への客観的判断材料を提供したいと考えております。
承継方法を判断するアプローチを見直してみませんか
多くのファミリービジネスの承継プロセスでは、まず一族内での後継者人材の有無を確認します。次に、その人物が経営者に相応しい能力を有しているか検討を進めます。
その結果、ご一族から次の経営者を輩出することは現実的ではないと判断される場合、一族外の承継手法として、役員・社員承継とM&A、さらには廃業という選択肢を順次拡張して考えることになります。
しかし、このプロセスでは、引き継ぐ事業にそもそも競争力(=後継者にとってインセンティブ)があるかないか、十分な判断を欠いているケースもみられるため、一族の財産が持つ潜在力を安易な売却で失うリスクもあります。
本稿では自社または一族の状況をもとに、いくつかの基準を通して、承継方法の選択肢を考える際にあるべき判断基準をご紹介します。
本来あるべき事業承継の判断基準
一族事業の永続化に向けた正しい事業承継の手法を判断するには、次の3つのステップに分けて考えることが大切です。
①事業の本源的競争力分析
まず、最初に考えるべき基準は、市場に於ける自社の事業の本源的競争力分析です。
事業の本源的競争力を欠く事業を後継世代に引き継いでも、一族の発展どころか、逆に一族の将来を困窮させる可能性があります。本源的な競争力を不可逆的に喪失しているケースではむしろ、早期に事業売却や廃業を選択することで、後継世代資産を維持して承継することができます。
事業の本源的競争力があることを確認できた場合、次のステップに進みます。
②一族における後継人材
事業の本源的競争力の確認に次いで検討すべき判断基準は、一族における後継人材の有無です。創業家一族が一族事業に関与し続けることにこそ、ファミリービジネスの持続的な成長に繋がるからです。
一族内に後継人材を求める際、一族の範囲を自身の世帯に限定することなく、兄弟やいとこなどに拡張したうえ、その方々の子供の有無も確認いただきたいのです。並行的に一族ガバナンスを強化すれば、一族全体に属する人材を幅広く登用できる可能性が高まるからです。
ファミリービジネスを支える一族の役割は経営執行ばかりではありません。一族理念を共有し、一族事業の永続化を支える安定株主としての役割もあります。たとえ直近の一族後継世代に経営人材がいなくとも、その次の世代に後継経営者候補が期待されるのであれば、所有と経営の分離を可能にするコーポレートガバナンスを確立したうえで、一旦、非一族のプロ経営者を導入することも一つの事業承継の選択肢となります。
ファミリーガバナンスの強化を通じて事業をよく知り、永続化のミッションを共有する一族が安定大株主として事業を所有し続けることで、一族事業の中長期的な成長戦略はより実現しやすくなります。その結果、一族事業の企業価値向上とともに、一族事業を支える一族の持つ資産も増大します。
尚、一族の持つ資産とは、一族が保有する一族事業の株式や不動産など有形資産だけではありません。一族事業の成長に伴う地域社会からの信頼や評判など、金銭的な評価を算出することは難しい無形資産も含まれています。
こうした有形・無形資産が相互に有機的に作用することで、一族事業は飛躍的に成長することができます。事業承継に際し『一族と事業は支え合う関係性であり、両者がらせん状を描くように上昇し成長していく』というイメージを持つことが大変重要なのです。
ただし、この構図は、一族事業をよく理解した一族株主が、一体となって一族事業の発展に貢献する時に初めて実現できるものです。詳細は下記の記事を参考にしてください。
③会社の規模
3つ目のステップとして会社の規模を確認します。
会社の規模が小さければ、非一族の役員・従業員が自己資金や返済可能な借入金で買い取り、事業承継することが想定できます。
一方、会社の規模が大きく、資金調達の面から社内での承継が難しいようであれば、最後にはPEファンドの活用を含む成長のM&Aを選択することになります。 一族が事業を売却した後は、その売却代金に、改めて一族理念を吹き込み、ファミリーオフィスとして再生させることを検討します。
こうしたファミリーオフィスによる再生プロセスを通し、事業を売却した一族は、再び起業家として新規事業に挑戦していく事が可能となります。
こうした3つのステップのように、一族の永続化に主眼を置いた事業承継の方法を幅広く検討していくことが重要です。
【参考資料】ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます! |