catch-img

ファミリービジネス(同族経営)のメリットとデメリット

我が国におけるファミリービジネス(同族経営)の割合は、全法人の90%以上を占めると言われています。しかし、創業からみて三世代目(従兄弟世代)まで残る企業は、欧米のファミリービジネスに関するデータによると10%未満と言われています。

その意味で、ファミリービジネスの持続的な成長に資する施策を確実に実行し、永続化を実現することは大切な一族の目標となります。そのためには、ファミリービジネスの特徴を知ることは、ファミリービジネスを所有する一族、及びファミリービジネスを支援するパートナーにとって前提条件となります。

今回は、ファミリービジネスのメリットとデメリットを体系的に紹介し、ファミリービジネスの短期及び中長期の戦略設計に役立つ内容になれば幸いです。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスのメリット
    1. 1.1.迅速な意思決定
    2. 1.2.中長期視点での経営戦略
    3. 1.3.計画的な後継者育成
  2. 2.ファミリービジネスのデメリット
    1. 2.1.ガバナンス機能の欠如
    2. 2.2.前時代的な経営


ファミリービジネスのメリット

迅速な意思決定

多くのファミリービジネスは、所有(株主)と経営(経営者)が一致している状態で、意思決定において齟齬が生じにくい仕組みを構築しています。さらに、オーナー社長を中心とした経営人材の団結力が強く、執行部門と取締役会が連動的に意思決定できる傾向にあることも素早い経営判断ができる1つの要因だと考えられます。

しかし、こうした強みは下記で詳述する、ファミリービジネスのガバナンスの欠如といったデメリットとも表裏の関係にあるため、一概にファミリービジネスの強みとは言い切れません。ファミリービジネスの意思決定に携わる者は、こうした潜在リスクを十分に考慮した透明性と合理性のある判断基準による意思決定が求められています。


中長期視点での経営戦略

非ファミリービジネスに比べて、優良なファミリービジネスでは上記の所有と経営の一致や上場企業よりも保守的なバランスシートを目指す特徴から、企業の中長期的な成長に資する経営戦略を打ち立てやすい特長があります。ファミリービジネスは、仮に、当期の利益が落ち込んだ際にも、中長期の利益獲得に必要な戦略であることを評価して、継続しやすい組織構造になっています。それ故、短期と中長期での利益獲得に必要な経営資源の配分を長期戦略の実現に向けてより柔軟にコントロールし、企業の持続的な成長に繋がる一貫した投資計画の実現が可能となります。

当期の利益最大化を求めることは、企業の使命ではあるものの、それだけを至上の目的として追い求めることには、全社戦略でみた適切な事業ポートフォリオの入れ替えができないなど、中長期的にみた事業の継続性の観点から危うさがあります。中長期のビジョンを一族及びファミリービジネスで明確に共有することが、短期の利益目標の継続的な達成に繋がることを認識しなければなりません。


計画的な後継者育成

ファミリービジネスでは、オーナー家が経営者を務める傾向が強く、経営者の交代は個人のライフサイクルを踏まえると、一般的に20~30年に一度の頻度で起こります。すなわち、経営者交代のタイミングに予見可能性があるため、本来ならば十分な準備期間を設けることができるはずです。

しかし、昨今、ファミリービジネスにおいて、後継者不足が課題として取り上げられているように、ファミリービジネスが必ずしもこうした時間軸でのメリットを十分に活かしきれていないことが実態となっています。この背景には、後継世代の職業選択の自由や能力、性格などを背景に、後継者を早期に決めきれないことが主因ではないかと思われます。

当世代の経営者は、短期で結論を出すことは難しくとも、一族事業を支える関係者を幅広く巻き込み、準備を早い段階から主体的に取組む必要があります。個々の一族メンバーのパーソナリティに注意を払いながら、他の経営人材及び次世代の視点からみたビジョンや後継者の在り方を聞いて、ディスカッションをするだけでも後継者育成の計画は確実に前進します。

後継者育成は当世代の経営者だけでなく、一族及びファミリービジネス全体で取組むべき重要な課題だと、当世代の経営者がまず認識することが重要です。


ファミリービジネスのデメリット

ガバナンス機能の欠如

ファミリービジネスにおいて考慮すべきガバナンスは、企業のガバナンス(=コーポレートガバナンス、ビジネスガバナンス)に加えて、所有者たる一族間のガバナンス(=ファミリーガバナンス)があります。こうした2種のガバナンスが2層構造を成して、一族事業の成否に影響を与えていくところに、ファミリービジネスの特徴があります。現在、多くのファミリービジネス(特に、非上場企業)のガバナンスは、両者とも実効性のある水準まで整備されているとは残念ながら断言できません。

ビジネスガバナンスの整備とは、委託者(=株主)から拠出された資本に対する管理・説明責任を果たすことにあり、その中核的役割は取締役会にあります。取締役会は、業務執行部門と異なり、部門の垣根を超えた全社視点で企業価値の向上に資する意思決定をタイムリーに行い、株主やその他の重要なビジネス・ステークホルダーに利益を還元することが求められます。

しかし、日本の取締役は各事業部門の上がりのポジションとして就任するケースが多く、自身の出身部門の利益(多くの場合、雇用)を潜在的に保護しようとしがちであるため、取締役会が本来の全社的観点からの戦略的資源配分の機能を果たすことが容易ではありません。

一方、ファミリーガバナンスの整備とは、一族事業を支える一族としての一体性を高めることにあります。強固な絆と明確なビジョンを持つ一族は、ファミリービジネスにおける株主としての役割を果たし、ファミリービジネスの持続的な成長をもたらします。日本のファミリービジネスでは、ファミリービジネスに直接関与していない一族メンバーは、ファミリービジネスの経営に対する関心は一般に低く(配当に対する関心は高い傾向にある)、ファミリーガバナンスの構築に積極的に関わろうとしません。しかし、異なる考えを持つ多くの一族がファミリービジネスの成長に貢献することは、ファミリービジネスに携わる一族メンバーの良き理解者としての役割をさらに充実させ、ファミリーガバナンスに多様性と高度化、そして、その結果として、永続化をもたらします

ファミリーガバナンスについては、別記事「ファミリーガバナンスとは」に詳細を記載しておりますので、併せてお読みください。

  ファミリーガバナンスとは 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


前時代的な経営

上述のファミリービジネスにおける経営者の交代が頻繁に起こりにくい特徴は、同時に経営変革をタイムリーに実行しにくいデメリットを引き起こします。当世代の経営者が改革・採用したビジネスモデルでの成功体験は、経営方針の硬直化を招く恐れがあります。

ファミリービジネスを取り巻く内外の経営環境変化に合わせて、表面的な改革や簡易で目立つ変更には着手できても、ビジネスモデルの根幹を変えようとする一族の理念に基づく強い信念を背景とした経営変革に対する不退転を覚悟といったレベルでの動機付けは困難です。大きな損失や不祥事が生じた結果、事後的及び受動的にビジネスモデルの変革に取組んだ事例がまま見られます。


こうしたファミリービジネスが持つメリットとデメリットは表裏一体の関係にあるものが多く、一族及びファミリービジネスの意識及び行動次第で決まります。中長期で実現したい企業価値や一族及びファミリービジネスのアイデンティティ、社会からの評判など、目に見えず評価しにくい価値に対して、どれほど真剣に対策を講じるのかが経営戦略の鍵となります。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等