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ファミリーオフィスと家族憲章の相互関係

人口減少と経済の成熟化により、国内市場の構造的な縮小が予想される日本。その日本に数多く存在するファミリービジネスが成長していくには、一族事業を支える絆の強い安定した一族株主を背景としたファミリーオフィスや家族憲章の考え方は無くてはならない存在になりつつあります。今回は、ファミリーオフィスと家族憲章が果たす役割をそれぞれご説明した上で、両者の関係性を明らかにしていきたいと思います。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリーオフィスとは
  2. 2.家族憲章とは
  3. 3.ファミリーオフィスと家族憲章の関係性


ファミリーオフィスとは

ファミリーオフィスは一族の「広義の富」の永続化を支援する機能を担う組織です。「広義の富」とは有形資産と無形資産を総称したものであり、また、無形資産は一族の価値観や使命、評判・信用、人脈などをイメージしていただければと思います。(永続化のもたらす価値については、別ブログ「ファミリーオフィスが必要な理由」を併せてお読みください。)

  ファミリーオフィスが必要な理由 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


日本ではファミリーオフィスの概念がまだ普及していない中で、「ファミリーオフィス=資産運用会社」という認識をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。たしかに、資産運用はファミリーオフィスの最も重要な業務の1つですが、それは本来ファミリーオフィスが担うべき多くの機能の1つにすぎません。上述の一族の無形資産に対する管理・運用もファミリーオフィスが担う重要な役割です

無形資産はその特性により、有形資産に比べて管理が難しく、客観的な評価を下すことが困難です。だからこそ、相続税評価の対象外となっているのです。また、同じ一族であっても、メンバーごとに無形資産そのものの評価は異なり、無形資産に対する意識も千差万別です。

そのような状況下で、無形資産の利用について統一的な目標もない中、一族の無形資産を個々人でバラバラに守っていくことは非効率であり、無形資産の価値を真に理解できていないメンバーがいる場合には、かえって無形資産を棄損するリスクまで生じることも懸念されます。

ファミリーオフィスは、一族メンバー自身が一族の一員であることを自覚させる組織です。一族と一族事業の持続的成長のために欠かせない無形資産を一族全体で守り、増やしていくことができるのです。また、一族に新たに参画するメンバー(例:配偶者や成人した子どもなど)へ一族の無形資産が持つ高い価値を教える過程において、ファミリーオフィスは一族メンバーの教育の場と体系的な学びを提供します。

加えて、一族の無形資産が持つ価値に賛同できず、一族と一族事業を支えていく意思のないメンバーをファミリーオフィスに組み入れないことで、永続化を目指す一族も明確に選定できます。


家族憲章とは

家族憲章は一族の絆を強固なものにし、一族のガバナンスを強化する文書です。ファミリービジネスを所有する一族だからこそ持つ一族特有の無形資産に関する精神条項と、株式の扱いや一族事業への就業ルールなどの技術的な内容を規定する条項が家族憲章には記載されます。端的に言えば、永続化を目指す一族が守るべきルールを掲載した文書です。

家族憲章の主な特徴の1つとして、家族憲章の全ルールは絶対・唯一である不可侵の存在ではなく、一族内外の状況変化により良く対応するため、可変的な要素も含まれ、流動的にルールを定めることが挙げられます。これは家族憲章が後継世代においても、有効なドキュメントとして機能することを目的にしているからです。作成した当世代にとって最適な文書であっても、経営環境や一族の構成メンバーが変化することで、その最適性が失われることは容易に想定できます。

その一方で、引退する世代が遺した事業や資産を後継世代が家族憲章と共に引き継ぐことには高い価値があります。引退する世代は、それ以前の世代から受け継いだ一族の持つ有形・無形の資産を一族事業に反映させ、一族と一族事業の成長に貢献する仕組みを守り続けた実績があるためです。

以上を踏まえると、後継世代の取るべき行動は、引退する世代が遺した家族憲章を土台に、後継世代が直面するニーズを踏まえて、家族憲章をカスタマイズしていくことです。そして、そうした時代に対応した家族憲章の修正を幾重にも積み重ねていくことが、一族と一族事業の永続化に繋がっていくのです。すなわち、永続化とは単に生き延びることを目的とするものではなく、持続的な進化を意識して、実践していくことが何よりも求められるのです


ファミリーオフィスと家族憲章の関係性

上述から、ファミリーオフィスは、一族の富の永続化を支援する組織、家族憲章は一族と一族事業の永続化を実現するために一族のガバナンスを強化する文書であるとお分かりいただけたかと思います。

ファミリーオフィスと家族憲章に通底する要素は永続化を求めることにあります。そして、両者とも創っただけでは意味がなく、持続的な進化を遂げながら、運用を継続することが求められます

ファミリーオフィスの運用では、一族メンバーが1つの集団として、価値観や使命の共有、後継世代の教育、社会貢献活動、ガバナンス整備、資産運用などといった活動に励むことが求められます。それに対して、家族憲章の運用では、一族会議体がその役割を担い、一族会議体の運用はファミリーオフィスが担っていきます。つまり、ファミリーオフィスは家族憲章を前提に運営していくことが求められているのです。


当社の社名にも含まれる「ファミリーオフィスサービス」とは、一族と一族事業の永続化を目標に、非財産分野での包括性を有するコンサルティングサービスの提供を意味します。「何をすれば永続化が成し遂げられる。」と事前に与えられた課題を解くアプローチではなく、「何をしなければ永続化は到底成し遂げられない。」と常に時間の経過と共に、永続化に必要な要素を取捨選択して考えることが重要です

その結果、ファミリーオフィス、さらには家族憲章が必要な項目となったのです。足りない要素を付け足し、不要になった要素を取り除く、このダイナミックなプロセスを継続的に取り組むことで、一族と一族事業の永続化は初めて実現できるのです

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等