家族憲章が必要な一族

家族憲章は一族の一体性を強化し、一族と一族事業の永続化を実現するためのドキュメントです。しかし、その作成には、それなりの時間とお金もかかります。家族憲章のもたらす価値とのバランスで考えたとき、どのような一族こそ家族憲章を作成すべきなのでしょうか。また、家族憲章を実効力のある文書として活用するには、一族にどのようなことが求められるのでしょうか。

今回は家族憲章に求められる内容としての要素ではなく、家族憲章を使う一族に求められる運用としての要素に焦点を当てたいと思います。

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目次[非表示]

  1. 1.当世代に求められること
  2. 2.無形資産を遺す難しさ
  3. 3.家族憲章の必要性


当世代に求められること

家族憲章は当世代のメンバーが中心となって作成し、当初から作成に携われる子どもや孫の世代は必ずしも多くはありません。しかし、直接、作成に関与していなくても、親世代の言動や作成している様子を垣間見ることで、作成された家族憲章を受け入れやすくする精神的土壌を予め作ることのできる可能性は十分にあります。

それに対して、作成した世代が亡くなった後に生まれてくる後継世代にとっては、家族憲章の出会いは起草・作成段階からではなく先代からの間接的な教えとなり、人を直接介しない分、実感がわきにくいものとなります。こうした世代が既に作成された家族憲章を一族の価値や精神的遺産について如何に実感をもって受け入れ、時代に合った修正・改訂を積極的に行えるか否かが永続化の実現を左右します。

よって、家族憲章の作成当初に関わるメンバーは自身の子どもや孫の世代だけではなく、まだ見ぬ未来の世代も意識して、彼らに何を遺し、更なる次の世代へ引き継いでほしいのか時代の変化も見据えて明確にすることが必須です。それには一族や一族事業内で既に生じている目下の問題へ対処する短期的な目線に加え、潜在的なリスクや持続的繁栄を考慮した長期的な目線を持つことが求められます。

後継世代が幸せな人生を送れるように、一族事業がいつまでも社会を支え続ける存在であるようになど、家族憲章を通じて遺したいことは将来を見据えたものです。しかし、当世代の一族メンバーを含む一族の先代が後継世代にとって誇らしい一族であることを実感してもらわなければ家族憲章が価値を生むことはありません。

自分自身を後継世代の立場に置き換えて現状の家族憲章を時代により適合するように見直すことも必要です。当世代の起業家としての原点に後継世代を思い遣る気持ちが心底感じ取れる文書になることで、後継世代は家族憲章を積極的に遵守し、次世代に主体的に伝えていこうと腹落ちすることができます。


無形資産を遺す難しさ

富裕層一族の場合、後継世代に金銭や不動産など目に見える資産(=有形資産)を遺すことは必然となります。しかし、有形資産については、形式的な手続きも法律上確立しているので、比較的容易に、且つその資産規模も明確に把握できます。

その反面、一族の理念や価値観といった目に見えない資産(=無形資産)を承継することは難しく、直接的に金銭評価することは困難であり、その価値は失って初めて、有形資産の価値の下落を通じて事後的に評価できるものです。すなわち、無形資産を維持することへの努力を軽視すれば、将来の有形資産を確実に減らす要因になり、その復元には多大なる努力と時間を要するものと理解する必要があります

また、他の一族から単なる知識として、無形資産の承継手法を学ぶことはできても、自らの一族において、どのようにこれを実践知として、後継世代に承継していくのかということになると、やはり相当な努力を長期間一貫して行うことが求められてきます。

したがって、一族メンバーが個々に持つ流動性ニーズ(短期の支払ニーズに代表されるような世俗ニーズ)の充足へも十分に配慮するからこそ、一族が足並みを揃え、その一体性を創り上げることで、一族のもつ無形資産を初めて承継させることができるのです。

一族の持つ無形資産については、「ファミリーオフィスの対象となる資産:無形資産編」においても記載しておりますので、是非ご一読下さい。

  ファミリーオフィスの対象となる資産「無形資産編」 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


家族憲章の必要性

上述の通り、後継世代に有形資産だけでなく、無形資産も遺したいと考え、その価値を真に理解している一族にとってこそ家族憲章は必要なツールとなります。一族と一族事業が永続化するための必要事項を家族憲章に記載し、そして、そこに記された理念や価値観を一族メンバーが自らの立ち居振る舞いを通じて習慣として反映することで、後継世代は自然と一族の在るべき姿を認識し、維持・強化できます。

一方、一族の中では核となるような理念は未だ明確ではない、あるいは当世代の考え方が後継世代を縛り付けてしまう恐れがあると消極的に考える一族もいらっしゃるかと思います。そのような一族においても、一族と一族事業の永続化を実現したいという信念は必ず存在するものです。肉体は滅んでも精神は後継世代の心に生き続けてほしいと多くの人が願うからです。それ故、一族が大切にしている信念や想いはどの一族においても欠くことのできない共通の無形資産となるのです。

​​​​​​​先代が遺した文書だけでなく、先代の思考プロセス自体も後継世代に伝えられているかが重要です。家族憲章を活用して先代から有形・無形資産を受け継ぐだけでなく、自らの考え方を反映させて、更なる次の世代へ資産を引き継ぐ、その連鎖が結果として一族の永続化に繋がります。


家族憲章が実効性のある文書になるため、一族に求められる要素に関してお伝えしてきましたが、最後に留意していただきたいのは、家族憲章は永続化実現の1つの手段にしか過ぎないことです。肝心な点は一族メンバーに永続化を目指す意思があるかどうかです。一族と一族事業を将来に向けてどのようにしていきたいのか、ビジョンを持つことが何よりも大切であり、それが一族と一族事業の永続化実現の第一歩となります

【参考資料】 ファミリーオフィスについて
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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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