家族憲章の効果的な作り方

家族憲章には、守るべき一族の理念・価値観、事業を経営する一族として果たすべき地域社会への貢献の在り方、一族事業に係る株式承継の規定、一族事業への就業方針など、様々なルールが記載されます。このような各種文言をどのように作成して、一族メンバーが自主的に遵守する仕組みを作れば良いのでしょうか。

今回は、家族憲章の作成プロセスをお伝えすることで、家族憲章が意味のあるドキュメントとして一族の一体性強化の実践の書として活用できることをご理解いただければと思います。

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目次[非表示]

  1. 1.家族憲章の作成メンバーをどう決めるか
  2. 2.アドバイザーの関与
  3. 3.効果的な作り方


家族憲章の作成メンバーをどう決めるか

家族憲章は一族の当主たる人物が独断で作成してはなりません。作成プロセスでは適切な一族メンバー、特に影響力の強い一族メンバーを1人でも欠くことは絶対にあってはならないのです。

一族事業において、重要な役割を担っていても仲の悪い一族メンバー、あるいは一族事業の株主の1人ではあるが疎遠になっているメンバーなど、一族内には必ずしも良好な関係を構築できていないメンバーがいることも想定されます。そのようなメンバーとコミュニケーションを円滑に取るのは容易なことではなく、一族と一族事業の永続化に寄与するまでに至るには多くの時間と労力を要するかもしれません。仲の良い限られたメンバーだけで家族憲章を作成する方が一見、効率的だと思えるかもしれません。

しかし、家族憲章の作成後、作成に関与していない一族の主要メンバーに「私はこんなものは認めない。」と言われてひっくり返されてしまうと、一族は一部の反発者とは完全に分断され、当初よりも悪い状況に陥ることも否定できません。もちろん、一族間の衝突は全て悪いという訳ではありません。一族にとって重要な事項について、討議における対立を通じて、むしろお互いの考えを知り合う最高の契機となる可能性もあります。だからこそ、重要な一族メンバー全員を家族憲章の作成に参加させ、互いに語り合うことが求められているのです

家族憲章の作成は一族間のコミュニケーション改善に大いに役立てられることに加えて、一族が繁栄するにつれて多様性が広がる後継世代での一族の一体化に大いに貢献することが期待されます。様々な考え方をもつ一族メンバーが議論を通じて家族憲章を作成・修正していくことで、限られたメンバーだけでは到底思いつくことのなかった一族の価値や意外性に気付くことが可能です

当初の段階から多様な一族メンバーと共に家族憲章を作成していくことで、家族憲章はその効力をより高め、後継世代における一族事業の在り方について選択肢を広げる大きな足掛かりになります。


アドバイザーの関与

上述のように、一族内の多様な人物を巻き込んで家族憲章を作成していきますが、当初は一族間のコミュニケーションがぎこちなく、不満も出てくることは容易に想像できます。それを補完するために一族以外の第3者の手を借りることが必要になります。特定の一族メンバーに肩入れすることなく、少数意見に対しても十分尊重し、一族全体の利益と一族の持続的成長を目的にした一族メンバー間の利害調整を担います

さらに、このようなアドバイザーは多くの事例を知り得ており、実績を積んでいるため、一族間の議論においてファシリテーターとしての役割を任せることができ、一族の時間的・精神的負担を軽減することも可能です。

また、家族憲章の作成・修正・改訂のプロセスでは、関与しているアドバイザーや社外の専門家がその内容をチェックしながら、文言についての提案を一族に対して行い、一族での討議を経て、具体的な項目についての検討をしていくことが通常です。例えば、家族憲章は一種の契約書であるため、弁護士に法的根拠や適法性を確認することは必須のプロセスです。


効果的な作り方

家族憲章の作成において、取り上げるべき内容は当然に一族ごとに千差万別であり、さらに、一族内においても、各検討事項に対する問題意識や捉え方は個々人により大きく異なる可能性があります。したがって、下記の4つに分類して、専門家からの助言も参考に、漏れの無い検討を進めることが欠かせません。

  1. すでにドキュメント化されている事項
  2. 合意はできていても未だドキュメント化されていない事項
  3. 合意すらできていない懸念事項
  4. 一族の当事者間では誰も気付いてはいないが、この分野の専門家として認識している、将来の懸念事項になり得る事項

家族憲章に記載する文言は精神条項と技術的内容(株式承継のルールや一族事業への就業方針など)に大別されます。一族の考えや想いが精神条項には直接的に表現されていますが、技術的内容にはそれが文言として表れることはありません。作成に直接携わっていない後継世代にとっては、どのような背景や想いがあってそうした項目を定めているのか、深く理解することが一層大切となります。そうした理解をするための場が一族の集まりである一族会議体と呼ばれるものです。

作成した文書を常に一族会議体で運用し、そこに利用上の難がないかどうかということを一族と一族事業内外の経営環境も考慮に入れながら定期的に見直すことで、常に一族全員が使いたくなるドキュメント、すなわち「活きたドキュメント」にすることが求められています。


家族憲章が実効力をもつドキュメントとして機能させるには、準備、協議、文書化、運用の各フェーズで適時適切なアプローチが必要となります。数多くの手順を経ることにはなりますが、それ故に一族の全てのメンバーにとってかけがえのない財産となります。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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