日本におけるコーポレートガバナンスの問題とあるべき姿を解説
近年、我が国においても、企業の情報開示への関心が高まっています。透明性と公平性を兼ね備えた企業経営が重視され、企業が社会に果たすべき役割を明確に発信することが求められています。こうした企業経営を実現するには、前提となる経営体制の適正化、すなわちガバナンス体制の整備が重要です。今回は、日本におけるコーポレートガバナンスの変遷や在り方に関して紹介していきます。
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日本のコーポレートガバナンス改革
100歳時代といわれる超長寿社会に入った日本では、対GDP比でみた巨大な財政赤字から、高齢者の老後を支える公助の力が既に限界となり、自助に頼らざるを得ない社会環境に移行しました。自助による老後時代を支えるには資産運用環境の改革が政策課題となり、インベストメントチェーン改革というスローガンのもと、運用環境の改革が求められるようになりました。
具体的には、第2次安倍政権が掲げた新成長戦略(日本再興戦略)をもとに、2014年2月、責任ある機関投資家の諸原則として、「日本版スチュワードシップ・コード」を金融庁が策定したことに端緒があります(2017年5月改訂、2020年3月再改訂)。スチュワードシップ・コードでは、機関投資家が建設的な対話(エンゲージメント)を通じて、財務データだけでなく、事業戦略などの非財務データも共有し、投資した公開企業の持続的な企業価値向上の促進に資する投資行動を求めています。
これを受けて、2015年6月、「コーポレートガバナンス・コード」を株式会社東京証券取引所が策定し、公開企業が取組む統治体制の指針を明文化しました(2018年6月改訂、2021年6月再改訂)。
コーポレートガバナンス・コードが要請しているガバナンスは、一般に「守り」と「攻め」の2つの側面で考えます。
「守り」のガバナンスとは、企業の意思決定の透明性と公平性の確保を要請し、経営者による暴走や私物化のリスクの抑制を求めており、主に内部統制などのコンプライアンス面で対応しています。一方、「攻め」のガバナンスとは、持続的な企業価値向上に資する経営行動を求めています。
コーポレートガバナンス改革は上場企業を対象としますが、非上場企業も上場企業と市場で競争している以上、現在、資本市場で推進されているコーポレートガバナンス改革の影響から自由ではありません。それ故、上場・非上場を問わず、全ての日本企業に対して、コーポレートガバナンスの整備を通じた企業価値向上が真に求められている時代に移行したと言えるのです。
別記事「【事例】参考となるコーポレートガバナンスを持つ企業」ではコーポレートガバナンスにおいて参考となる企業を紹介しておりますので、あわせてご覧ください。
日本企業に求められるコーポレートガバナンス体制
コーポレートガバナンスの強化には、企業の業務監督を担う取締役会の活性化が最も重要です。我が国の会社法では、上場企業は、原則として監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの体制で取締役会を設置しなければならないと定めています。まずは、その概要を簡単にご説明いたします。
①監査役会設置会社
3人以上の監査役(過半数は社外監査役)からなる監査役会が経営状況を監査する制度で、東証プライム上場企業の57.6%(2022年8月時点、日本取締役協会調べ)がこれに該当します。
②監査等委員会設置会社
取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める監査等委員会を設置し、当該委員会が指名委員会・報酬委員会に代わるある程度の経営評価機能(株主総会における取締役人事・報酬などに関する意見陳述)を持ち監査機能を担いつつ、業務執行に対する監督機能を果たすことを目的としています。東証プライム上場企業では、38.5%(2022年8月時点、日本取締役協会調べ)が該当し、2014年の会社法改正で2015年5月より導入されて以降、3種の組織形態の中で最もその割合を伸ばしています。
③指名委員会等設置会社
取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める3つの委員会(指名委員会、報酬委員会、監査委員会)を設置し、取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役に委ね、経営の合理化と適正化を目指した制度です。2003年4月施行の改正会社法での導入以降、採用した東証プライム上場企業は72社と、僅か3.9%(2022年12月時点、日本取締役協会調べ)しか該当していません。
コーポレートガバナンスの観点から言えば、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社の順で、業務執行のモニタリングという意味でのガバナンスがより整備されていると考えられています。実際の導入比率からも分かる通り、コーポレートガバナンス強化の動きは政策当局の当初の期待通りには十分進んでいません(折衷策として制度設計された監査等委員会設置会社の数は増えているものの、欧米の投資家からの評価は決して高くはないことが実態です)。こうした背景もあり、2022年4月施行の東証での新市場区分では、プライム市場に上場するには原則、取締役会のメンバーの3分の1以上を(独立)社外取締役にするなど、より高水準のガバナンスを上場企業に求めています。
非上場企業に対しては、こうした法的な要請はないものの、上述の上場企業との市場での競争の視点や、今後求められる所有と経営の分離を踏まえたガバナンス強化の流れなどを考慮すると、一定水準以上のガバナンス機能を有しない限り、中長期でみた市場における優位性の確立が困難となるのは明白です。
今や日本企業が持続的な成長力を有するには、コーポレートガバナンスの見直しが重要な局面となっています。コーポレートガバナンス改革は短期的な成果が見えにくく、現経営体制で問題なく運営している企業ほど、積極的に取組むための動機づけが困難です。しかし、コーポレートガバナンスの不備は、問題が発生してようやく認識されるケースがほとんどです。将来のビジョンを描き、そこから逆算してどのような組織運営が今、必要なのか考えることがコーポレートガバナンス改革の第一歩です。
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