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コーポレートガバナンスの問題とあるべき姿

近年、我が国においても、企業の情報開示への関心が高まっています。透明性と公平性を兼ね備えた企業経営が重視され、企業が社会に果たすべき役割を明確に発信することが求められています。こうした企業経営を実現するには、前提となる経営体制の適正化、すなわちガバナンス体制の整備が重要です。今回は、日本でコーポレートガバナンス強化が着目されるようになった背景から、その改革の流れ、そして、今後あるべき姿に関して紹介します。

目次[非表示]

  1. 1.コーポレートガバナンスの問題点
    1. 1.1.背景
    2. 1.2.不十分なコーポレートガバナンスの強化
  2. 2.近年のコーポレートガバナンス改革
  3. 3.コーポレートガバナンス強化の手法と意義
    1. 3.1.コーポレートガバナンス強化の手法
    2. 3.2.コーポレートガバナンス強化の意義


コーポレートガバナンスの問題点

背景

我が国でコーポレートガバナンスの重要性が唱えられるようになったのは、1990年代以降だと言われています。高度経済成長期下の日本では、大半の企業が毎年、前年を上回る利益を安定的に確保できる環境であったため、市場から内部統制を強く批判されることはほとんどありませんでした。そのため、現代の開示情報でみられるような整備されたコーポレートガバナンス体制を対外的に発信する企業は稀有でした。

しかし、その風潮は1980年代に入ると変化していきます。高度経済成長期が終了し、他国との競争を意識するようになった中で、規制緩和やグローバル化などを背景に経済の自由化が進展し、金融機関が企業に対して持つ影響力は限定的になりました。そして、バブル崩壊を契機に、その反動が企業の不正経理や粉飾決算などの不祥事として露見され、経営体制に一定の規制を設けて不祥事を防ごうとする動きが一気に強まりました。

不十分なコーポレートガバナンスの強化

その1つの手段として、コーポレートガバナンスの整備が注目を集めるようになったのです。しかし、従来の経営体制を鑑みず規制のみを厳しくすると、企業の独自性や成長力を阻害する要因になり兼ねないこともあり、当時のコーポレートガバナンス改革では、形式的な要件しか定めることができず、実効力のあるコーポレートガバナンス体制を築けた企業は少数であったと言わざるを得ません。むしろ、不祥事を起こした企業が経営体制の刷新として、事後的にコーポレートガバナンス改革に着手するという受動的な取組みが散見されました。


近年のコーポレートガバナンス改革

21世紀を迎えると、100歳時代といわれる超長寿社会に入った日本では、対GDP比でみた巨大な財政赤字から、高齢者の老後を支える公助の力が既に限界となり、自助に頼らざるを得ない社会環境に移行しました。自助による老後時代を支えるには資産運用環境の改革が政策課題となり、インベストメントチェーン改革というスローガンのもと、運用環境の改革が求められるようになりました。

具体的には、第2次安倍政権が掲げた新成長戦略(日本再興戦略)をもとに、2014年2月、責任ある機関投資家の諸原則として、「日本版スチュワードシップ・コード」を金融庁が策定したことに端緒があります(2017年5月に改訂)。スチュワードシップ・コードでは、機関投資家が建設的な対話(エンゲージメント)を通じて、財務データだけでなく、事業戦略などの非財務データも共有し、持続的な企業価値向上の促進に資する行動を求めています。

これを受けて、2015年6月、「コーポレートガバナンス・コード」を株式会社東京証券取引所が策定し、企業が取組む統治体制の指針を明文化しました(2018年6月、2021年6月にそれぞれ改定)。

コーポレートガバナンス・コードが要請しているガバナンスは、一般に「守り」と「攻め」の2つの側面で考えると理解しやすいです。「守り」のガバナンスとは、企業の意思決定の透明性と公平性の確保を要請し、経営者による暴走リスクや私物化リスクの抑制を求めており、主に内部統制などのコンプライアンス面で対応しています。一方、「攻め」のガバナンスとは、持続的な企業価値向上に資する経営行動を求めています。

コーポレートガバナンス改革は上場企業を対象としますが、市場において非上場企業は上場企業と競争している以上、現在、資本市場で推進されているコーポレートガバナンス改革の影響から非上場企業も自由ではありません。それ故、上場・非上場を問わず、全ての日本企業に対して、コーポレートガバナンスの整備を通じた企業価値向上が真に求められている時代に移行したと言えるのです。


コーポレートガバナンス強化の手法と意義

コーポレートガバナンス強化の手法

コーポレートガバナンスの強化には、企業の業務監督を担う取締役会の活性化が最重要です。我が国の会社法では、上場企業は、原則として監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社のいずれかの体制で取締役会を設置しなければならないと定めています。まずは、その概要を簡単にご説明いたします。

監査役会設置会社
3人以上の監査役(過半数は社外監査役)からなる監査役会が経営状況を監査する制度で、東証一部の企業の62.6%(2021年8月時点、日本取締役協会調べ)がこれに該当します。

監査等委員会設置会社
取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める監査等委員会を設置し、当該委員会が指名委員会・報酬委員会に代わるある程度の経営評価機能(株主総会における取締役人事・報酬などに関する意見陳述)を持ち監査機能を担いつつ、業務執行に対する監督機能を果たすことを目的としています。東証一部の企業では、34.2%(2021年8月時点、日本取締役協会調べ)が該当し、2014年の会社法改正で2015年5月より導入されて以降、3種の組織形態の中で最もその割合を伸ばしています。

指名委員会等設置会社
取締役会の中に、社外取締役が過半数を占める3つの委員会(指名委員会、報酬委員会、監査委員会)を設置し、取締役会が経営を監督する一方、業務執行については執行役に委ね、経営の合理化と適正化を目指した制度です。2003年4月施行の改正会社法での導入以降、採用した東証一部の企業は70社程度と、僅か3.2%(2021年8月時点、日本取締役協会調べ)しか該当していません。

コーポレートガバナンス強化の意義

コーポレートガバナンスの観点から言えば、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社の順で、業務執行のモニタリングという意味でのガバナンスがより整備されていると考えられています。実際の導入比率からも分かる通り、コーポレートガバナンス強化の動きは政策当局の当初の期待通りには十分進んでいません(折衷策として制度設計された監査等委員会設置会社の数は増えているものの、欧米の投資家からの評価は決して高くはないことが実態です)。こうした背景もあり、2022年4月施行の東証での新市場区分では、プライム市場に上場するには原則、取締役会のメンバーの3分の1以上を(独立)社外取締役にするなど、より高水準のガバナンスを上場企業に求めています。

非上場会社に対しては、こうした法的な要請はないものの、上述の上場会社との市場での競争の視点や、今後求められる所有と経営の分離を踏まえたガバナンス強化の流れなどを考慮すると、一定水準以上のガバナンス機能を有しない限り、市場における優位性の確立が困難となるのは明白ではないでしょうか。


中長期における持続的な成長力を日本企業が有するには、コーポレートガバナンスの見直しが重要な局面となっています。ガバナンス改革は短期的な成果が見えにくく、現経営体制で問題なく運営している企業ほど、積極的に取組むための動機づけが困難です。しかし、コーポレートガバナンスの不備は、問題が発生してようやく認識されるケースがほとんどです。将来のビジョンを描き、そこから逆算してどのような組織運営が今、必要なのか考えることがコーポレートガバナンス改革の第一歩です。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等