後継者不足を乗り越えるファミリービジネスの永続化手法
日本企業の後継者問題は、近年、益々注目を集めています。特に中小企業では、2025年には経営者が70歳を超す企業の半数以上で後継者が決まっておらず、大廃業時代を迎えることが危惧されています。日本企業の90%以上がファミリービジネスと推定されるため、こうした現象はファミリービジネスの永続化を阻害する問題として捉えられます。
今回は後継者不足問題を皮切りに、ファミリービジネスの永続化に向けた様々な施策を検討していきたいと思います。
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後継者不足の実態
帝国データバンクの調査(特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査[2020年])では、全体(調査対象:約26.6万社)の約65.1%が後継者不足であることを明らかにしています。留意していただきたいのは、この数値自体は経営者の年齢を考慮したものではないことです。まだ事業承継の問題を緊急の課題として捉えにくい世代では、当然に後継者不在の割合は上昇します。実際に、経営者が20代や30代である企業では、後継者不在率が90%を超えています。しかし、事業承継が遠い先の話とは決して言えない70代以降の経営者が運営する企業では30%以上の企業で後継者が未だに決まっておらず、後継者不足の問題が日本の社会問題として懸念されていることは正にその通りだと思います。
また、同調査によると2020年に事業承継が判明した企業の内、同族承継が34.2%、血縁関係によらない社内役員の登用が34.1%でした。同族承継の比率は減少傾向にあり、実際に2018年の42.7%から大きく下落しています。
こうした現象の背景には、日本の総人口減少というマクロの要因に加え、より高度な教育を受けた後継世代が希求する職業選択の自由や一族事業自体の想定的な競争力低下などのミクロの要因もあり、同族承継の減少傾向は続くと思われます。
後継者問題を乗り超えるファミリービジネスの永続化手法
ファミリービジネスを所有する一族は事業から金銭的報酬のみならず、名声や信頼、生きがいなどの様々な無形の恩恵も持続的に享受しています。こうした一族事業を所有することのメリットと事業を売却・廃業した場合のメリットを比較して、中長期的な視点で一族にとっての価値を判断した上で、高い効用を選択することが重要です。
それ故、子どもの世代に後継者候補がいないケースにおいて、直ちに一族事業の売却・廃業を機械的に決めるのではなく、経営は一旦、非一族のプロ経営者に任せる一方で、一族は安定大株主として事業を支える仕組み(=所有と経営の分離構造の構築)の検討も必要です。
その結果、1世代飛ばして、孫の世代で一族経営者を輩出させることも可能となり、超長期でみれば一族とファミリービジネスの持続的な良好関係の構築も可能となります。
仮に事業の売却・廃業を選択することになっても、こうしたプロセスを通じて、一族は自分たちのルーツを再確認し、一族の絆を強めた状態で新たなスタートを迎えることができると考えています。
ファミリーガバナンスの強化
一族の絆を強化することはファミリーガバナンスを強化することに直結します。一族の理念や価値観、使命を明確にし、一族全体で共有して一貫した言動を取り、一族事業を支え続けることが可能になるからです。
ファミリーガバナンスの強化手法は、一族のルールを明らかにする家族憲章の作成及びその定着のための一族会議体の運営が不可欠です。そして、こうした仕組みを一族の視点で一貫して企画・運営するためにファミリーオフィスの設立が求められています。
家族憲章、一族会議体、ファミリーオフィスの詳細の仕組みは別記事「ファミリーガバナンスとは」に纏めて記載しておりますので、是非併せてご一読ください。
ファミリービジネスにとって、事業承継は大きなイベントであり、特に後継者問題に関しては悩みの種が尽きない経営者もまま見られます。たとえ、事業承継候補者1人がどれほど優秀な人材であってもその人物に全てを託し、結果として一族事業の私物化や暴走を無意識の内に許容してしまう仕組みを取ってしまうと、一族の永続化においてベストな対策とは言い切れません。後継者を中心にスチュワードシップ(=受託者責任の精神)の責務を担う後継世代全体が一丸となって、一族と一族事業を支えていく仕組みこそが永続化には不可欠です。
こうした仕組みを当世代が意図的に創り、将来、後継世代のみで効果的な運用が可能になるまで試行錯誤を進めていく必要があります。後継世代へ引き継ぐための諸々の準備は、立場によって異なる利害関係を潜在的に有する一族メンバー全体の意思統一が必須となるため、多くの工程と時間を要します。短期的な成果を見込みにくい性格があるものの、その成果がもたらす価値は一族にとってかけがえのない財産になり得ます。一族の忍耐と一族内の丁寧なコミュニケーションが一族の永続化の礎となるのです。
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