家族憲章の構成

家族憲章は一族の絆(一体性)を強化して、一族のガバナンスの基盤を構築します。そのプロセスを経て、一族が安定株主として一族事業(=ファミリービジネス)を支える覚悟を共有し、最終目標である一族と一族事業の使命を、持続的な成長を通じて実現することに繋がります。

今回は、欧米で一般的にみられる家族憲章の構成要素をご紹介し、一族と一族事業の永続化の第一歩である家族憲章に「何を記載するべきなのか」、大枠のイメージを把握していただければと思います。

図:家族憲章の構成例


上図より、欧米の一般的な家族憲章は、ファミリーミッションステートメント、ファミリービジネスプロトコル、株主間契約の3要素より構成されています。この主要3要素に対して、目的、特性、主な項目、付随項目、検討のプロセスごとにその特徴を記しています。具体的な説明も下記に記載していますので、併せてお読みください。

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目次[非表示]

  1. 1.ファミリーミッションステートメント
  2. 2.ファミリービジネスプロトコル
  3. 3.株主間契約


ファミリーミッションステートメント

ファミリーミッションステートメントの目的は、家族憲章の核とも言える一族に関する記載です。その内容は理念的で倫理的である一方、法的な強制力を持たない一族の絆のベースとなる精神規範であることに特徴があります。

主に書かれている項目として一族の価値や信念、一族事業運営の基本方針、すなわち、会社がどのような目的で運営されなければならないか、何のために社会に存在しているのかといった重要な内容が含有されています。また、付随項目に記載してある行動計画とは、一族のメンバー、特に、家族憲章の作成に直接携わることができず、間接的に教わる後継世代が具体的な行動を起こすための規範となる内容を意味しています。家族憲章の検討のプロセスにおいては、全ての一族メンバーが幅広く関与し、参加型で討議することが必要です。その中でファミリービジネス全般について知見のあるアドバイザーが、こういった会議のファシリテーターとして関与することでファミリーミッションステートメントの作成がスムーズに進みます。

さらに、一族の価値観や使命など(=一族の無形資産)を記した文章において、エピソードを追記することは、後継世代がより理解しやすいものとなるため重要な意味を持っています。家族憲章は作成した当世代に加えて、まだ見ぬ未来の世代も活用できるように作成することが必須です。後継世代は、先祖が重宝していた無形資産に対して、どのような背景のもとに、そのような考え方を持つに至ったのか知ることができなれば、その価値を真に理解することはできず、更なる次の世代へ遺していく動機も生まれません。その結果、一族は無形資産を損い、一族と一族事業の永続化を目指す仕組みも破綻することになります。


ファミリービジネスプロトコル

ファミリービジネスプロトコルは一族議定書とも訳され、どのような手続き・手順を踏んで、一族が事業に関与するのかを決めていくものです。倫理的な強制力を伴う場合があることに加え、その内容の一部は法律的に強制力を持つものもあります。

家族憲章は一族内のルールであるため、一族間で強制力を持つことで、事実上強制できるケースが多く存在します。一族と一族事業を支えるメンバーとしての資格を付与する条件などがその代表例です。「経営者を輩出している直系の一族でなく、事業に直接、関与していない分家の一族株主であっても、本人の十分な能力と意志があれば一族と一族事業を支える一族の中心人物として認められる。」というようなルールを作ることが欧米のファミリービジネスでは一般的です。特に、日本のような1つの世帯での子どもの数が少なくなる社会環境の中では、幅広い一族メンバーに支える一族としての役割を求めることが今後、益々必要になります。

主要な項目の中に、一族事業の方針や参画の手続き、事業承継のルールなどが定められる場合があり、付属項目には事業の基本運営方針によって規定されるルールも組み込まれます。これらの項目を作成する際には、原則として、一族事業に関与しているメンバー、または現在もしくは将来参加するメンバーなどが関与します。

先のファミリーミッションステートメントでご説明したように、当然に参加型で討議し、技術的な内容も含むため、法律や財務の専門家の助言を得ながら、具体的な条項を決めていく性質も持っています。株価評価の手法がその代表例として挙げられます。


株主間契約

株主間契約には、一族株主全員が守らなければいけない約束事が書かれています。それは法律的に強制力を持つ規範であり、株式所有や統治のあり方についてルールを定めています。その特性から、株主間契約においても専門のアドバイザーが必要になることはご理解いただけると思います。

株主間契約で定めたことに対し規約違反をすれば、他の一族株主から圧力を受け、契約を通じ、株主としての立場を放棄せざるを得ない状況に立たせることも可能となります。その一方で、一族と一族事業の永続化を前提に、一族事業の環境変化への対応力を高めるには一族株主間で多様な意見が出てくることは大いに推奨されるべきです。

株主間契約において、株主間の潜在的対立の可能性のある項目について、どのように具体的な施策を検討すべきか、ということなどは株主ごとに異なります。また、たとえ対立が生じたとしても、その対立調整目的の根源にある考え方として共通しているのは、個人ではなく一族単位で支え合い、永続化を目指していくことへの意義を共有していることです。


家族憲章は精神条項と法的強制力を持つ条項から構成されています。ここで留意していただきたいのは、全条項が一族内外の経営環境に合わせて、時代ごとに変更できるということです。家族憲章は当世代が後継世代に自らの価値観を押し付けるものにはなり得ないからです。

当世代が遺した文書は、後継世代のより良い人生、一族事業の更なる成長を望むものであり、それを後継世代は主体的に学び、カスタマイズすることが求められます。その意味で過去に閉じた世界の中にある、いわゆる「家訓」とは一線を画しています。

家族憲章は不変の要素に加え、世代ごとの一族が時代の要請を受けて、新たな内容を主体的に書き加えていくことで、永続化を目指す一族を支える真の一族ドキュメントとなります。それこそ家族憲章が一族と一族事業の永続化に寄与することになるのです。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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