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家族憲章と家訓の違いを7つの観点から解説

当社で家族憲章についてご説明すると、「家訓とはどう違うのですか?」とご質問を受けるケースがあります。両者とも一族の後継世代に遺す文書という点では同じような印象を受けるでしょうが、そこには明確な違いが存在します。

今回は下記7つの項目において、家族憲章と家訓を比較することで、なぜ家訓ではなく家族憲章が一族の永続化にとって必要なのかということをお伝えします。


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目次[非表示]

  1. 1.法的拘束力
  2. 2.作成プロセス
  3. 3.書き換えの可能性
  4. 4.規定の具体性
  5. 5.規定を運用する会議体の有無
  6. 6.背景となる思想
  7. 7.一族事業から離脱する時の扱い


法的拘束力

家族憲章はその大部分に法的拘束力があります。一方、家訓の場合は全くそうしたものはありません。単に精神的なものとなっています。家族憲章における精神条項の部分に近似していますが、具体的な行動規範まで記載されることはありません。


作成プロセス

家族憲章は当世代が作成し、内容に関して討議する作成プロセスを通じて、一族が互いに理解し合うことができます。例えば、作成時の打合せで、作成メンバー同士の自己紹介において、自分はどんなことが好きで、どんなことが得意で、どんな期待を一族の事業に対して持っているかなどということを初めに情報交換することが多くあります。そのときに一族メンバーの持つ意外な専門知識や能力、人脈等に関する発見があって、盛り上がり、絆を強めることができます。

一方、家訓は代々伝えられたものです。当世代の一族が作成プロセスに関与していないため、一族メンバーは世代を経るごとに増えていくことに反して、一族間のコミュニケーションの場は少なく、限定的になる傾向があります。


書き換えの可能性

家族憲章は定期的な書き換えを前提とした文章です。一族メンバーが一定のルールに基づいた討議を通じて、必要な書き換えを常に検討していきます。仮に先代の教えが時代にそぐわないものになる場合は、一族メンバーの合意を経て適切な内容に変更できます

一方、家訓は書き換えなどもっての他で、ご先祖様からいただいた大切な教えです。それ故、徹底して守る、墨守することが求められています。


規定の具体性

家族憲章は誰もが具体的な行動を起こすことのできる行動規範、また、意思決定の基準として具体的に記載されているため、一族メンバーはその規定をもとに行動をとることができます。それは解釈の違いに伴う不必要な一族間の争いを回避し、一族は期待可能性をもとに、各々のメンバーが長期の人生計画を立案することができます

それに対して、家訓は抽象的な内容であるため、具体的な問題解決の役割を果たすことができません。それは解釈にあたり、当主の口伝者を必要とします。つまり、具体的な内容やその背景を説明できる人は一部の一族メンバーに限られる可能性が高まります。


規定を運用する会議体の有無

家族憲章では、定期的な一族の集まりである一族会議体を通じて運用や修正を行います。具体的には一族総会(=企業における株主総会にあたるもの)と一族会議(=企業における取締役会にあたるもの)があります。

一方、家訓には上述の通り、書き換えの可能性がないため、規定を運用する会議体はありません。


背景となる思想

家族憲章は個人の尊厳を前提とし、一族集団の目的との調和を目指しています。それはあたかも日本国憲法に書かれているように、個人の尊厳・権利は大切である反面、その行使にあたっては、公共の福祉との調和が必要であることと同様な関係と言えるでしょう。たしかに、一族メンバーの尊厳や権利主張は欠かせませんが、一族集団の目的と調和を前提として目指さなければならないという規定になります。

一方、家訓は日本の家制度を起源に持つ発想で書かれているため、その意味で個人の尊厳が現代憲法で尊重されている水準まで至っていない場合も想定されます。


一族事業から離脱する時の扱い

家族憲章では、一族全体の方針や考え方に従えない人が出てくることを当然だという考え方が考慮されています。その際には、反対する一族メンバーが所有する一族事業の株式を積極的に買い取っていきます。一族による株式の買い取りを通じて離脱の形を取る、これを欧米では木の剪定にたとえて、pruning the tree <株主の剪定> と呼ぶ場合があります。

一方、家訓は勘当・絶縁の形をとるのみとなります。


以上7つの観点から家族憲章と家訓の違いを簡単に比べました。どの項目においても、家族憲章は家訓より汎用性が高い文書だと認識されるかと思います。後継世代は家族憲章から先代の教えを受動的に受け入れるのではなく能動的に関与することで、より良いものにして次世代に承継できることが永続化に繋がります

しかし、ここで注意していただきたいのは家訓が悪い、または劣っているのではなく、そして、家族憲章と家訓は全く別のものではないということです。家訓をもとに家族憲章が作成されるケースも多くあるため、家訓を一族の意思決定基準や行動規範にまで具体化させて家族憲章にすることは十分可能です

​​まずは、一族の中でどのようなことを大切にしているのか、一族の原点に立ち返って、一族間で話し合いの場をもつことが大きな足掛かりになります。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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