家族憲章の雛形にご注意を!

家族憲章は一族と一族事業の永続化を目指すために一族の一体化を実現する文書であり、一族メンバーが各条項を遵守し、後継世代へ引き継ぐことが求められます。

当社ではファミリーオフィスサービスの一環として、家族憲章の作成をご支援しておりますが、ファミリーオフィスそのものが日本のファミリービジネスではまだ普及していないため、家族憲章が具体的にどのような構成であるのかよく分からない方が多いかと思われます。

今回は家族憲章を作成しようと考えている方に対して、その雛形についてご説明したいと思います。​​​​​​​

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目次[非表示]

  1. 1.家族憲章の雛形をお見せします?
  2. 2.雛形のメリットとデメリット
  3. 3.青山ファミリーオフィスサービスにおける雛形


家族憲章の雛形をお見せします?

家族憲章は一族と一族事業を対象にしており、各一族・一族事業において、背景や懸念事項が異なることは当然であり、同じ状況であることは基本的にありえません。さらに、家族憲章に記載されている条項は一族のプライバシーに関するものが多く、秘匿性が高いため、一般公開することも想定されておりません。

したがって、とある一族の家族憲章を他の一族へ具体例として提示する場合には制約があり、たとえ具体例であっても抽象的な雛形にしか過ぎず、一族固有のニーズに合う可能性も高くはありません

そのため、これまで我が国においては、家族憲章作成に対する顕在化されたニーズはまだ高くないこともあり、先行事例として欧米の家族憲章が取り上げられることが多いです。

しかし、欧米の家族憲章を直接、真似しようとも欧米の法制度や思想背景が日本のファミリービジネスとは合致しない箇所があるため、完全な雛形としては機能しないことを留意しなければなりません。


雛形のメリットとデメリット

たしかに家族憲章の雛形を提示することは、仮に抽象的なものであっても、作成する前にある程度のイメージを持つことができ、効率的に作成を行えるという一定のメリットがあります。また、これから家族憲章の作成に参画させようと考えている他の一族メンバーへの説明材料にもなり、一族メンバーの同意を得やすくなることも雛形の利点です。

一方で、家族憲章の雛形を見せることにより、一族の家族憲章から独自性が損なわれる恐れがあります。家族憲章は上記の通り、唯一無二である自らの一族と一族事業に関する規定であり、検討すべき内容も一族ごとに異なります。雛形を作成前に見ることで視野が狭くなり網羅性に欠けることや、無意識の内に雛形に合わせた文言を多用して、一族の心には響かず、形骸化した内容になるというリスクを高めることが懸念されます。

たとえ当世代にとっては違和感のない文書が作成できても、後継世代にとっては一族のアイデンティティを感じることが困難になり、ドキュメントの本源的な目的である一族と一族事業の永続化実現を阻む要因になることも過言ではありません。


青山ファミリーオフィスサービスにおける雛形

家族憲章の雛形を提示することにはメリットとデメリットがそれぞれあり、デメリットの方が大きいと私たちは考えております。それでは、どのようにして、当社は家族憲章作成のお手伝いをしているのか、簡単にご説明致します。

当社では、家族憲章の作成をご支援する際に、最初から雛形を提示することはありません。家族憲章に記す文章を作成当初から意識する必要はなく、一族ごとにキーワードや問題意識の高い項目を抽出することからスタートするためです。

そして、一族メンバー間や第3者である専門家とのディスカッションを通じて、個々人が抱えている問題事項やニーズを一族内で共有したり、具体的な言葉として表現できなくても、一族にまつわるエピソードを通じて間接的にキーワードや価値観を把握したりします。他者の意見を聞き、問答を繰り返す中で、潜在ニーズを掘り起こすことも可能です。

特に、理念や価値観といった精神条項に係る抽象度の高い内容は注意が必要です。後継世代が初めて耳にしても、抽象性の高い精神条項を正しく理解して納得することが何よりも重要です。言葉を遺すだけではなく、その言葉の背景やエピソードなどを同時に想起することで、一族の固有な経験を通じて形成されてきた価値観や大切にしている行動基準を後継世代に伝えなければなりません

つまり、具体的な行動を起こすことができるほどに行動規範も具体的に記す必要があります。そのためには、作成の段階からプロセスを重視する必要があり、雛形はむしろそのプロセスを妨げる要因になり得る場合があるのです。このように、過程を重視して家族憲章を後継世代が引き継ぐことで、次の世代に一族の理念や価値観などを遺そうとする意識が自発的に醸成されてきます。


繰返しにはなりますが、家族憲章は目的ではなく手段に過ぎません。永続化に資する適切な内容であり、一族全員が承認する文書を作ることができれば、形式に拘りをもつ必要はありません
家族憲章という型として後継世代に遺す一方、型に囚われない自由で独自性のある文言や内容にすることに意義があります。後継世代に当世代の考えを押し付けたくはないが、何か役立てられるように遺したいという当世代の複雑な想いを家族憲章に反映することが可能です。

経験がなく、参考になる事例も乏しい状況で、新しいものを作り上げることには少なからず抵抗感や不安感を抱くでしょう。しかし、家族憲章の作成においては、核となる要素が自身と密接な関係にある一族と一族事業の中にあり、改めて一族と一族事業について考え直し、今後の方針や対策を立てる過程の1つに家族憲章は位置しているのです。

家族憲章の雛形に頼らずとも、作成のための題材は既に一族に内包されていることを忘れてはなりません。その一族の内心に問いかけ、プロセスを共同で行うことにこそ大きな価値があるのです

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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