事業承継 失敗事例と成功事例

世間ではファミリービジネスの事業承継は難しいと言われることが多いです。事実、ファミリービジネス固有の課題が複数あります。これらの課題に取り組まず、または気づかずに、承継後にトラブルになるケースは絶えません。

一方で、事業承継の課題を捉え、対策を考え、解決する具体プロセスを仕組化することで、ファミリービジネスの永続化に意識的に取り組まれている企業もあります。

今回はファミリービジネスに於ける事業承継の失敗例と成功例を比較します。

【参考資料】


ファミリーオフィスについて

下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!


  資料ダウンロード_お役立ち資料 永続化するためには、どのような事項を検討すればよいか知りたい方。 一族や一族事業の永続化、またはファミリーオフィスについて知りたい方。 ファミリーオフィス設立を検討されている方向けの資料です。 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


目次[非表示]

  1. 1.失敗事例:伝統とイノベーションの融合に失敗
  2. 2.成功事例:適切な所有と経営の分離


失敗事例:伝統とイノベーションの融合に失敗

父が創業者であり、1世代で売上最高700億円まで築き上げてきた会社がありました。創業者には子供がおり、銀行に就職したのち、当社に入社しました。後継者として入社した彼は入社後2年後には取締役に就任。入社後15年で社長職を引き継ぐことになりました。このとき、創業者は65歳でした。残念ながらこのタイミングで売上は下降傾向に陥っておりました。

新社長に就任した2代目はこれまでの経営方針や組織を一新するという策を打ち出しました。特に当社がこれまでターゲット層にしてきた富裕層向け会員制ビジネスから誰でも立ち寄れる大衆向けビジネスへの転換を打ち出しました。これに対して創業者やその側近が猛反発し、その結果、経営権を争う社内紛争に発展してしまいました。会社の紛争は一族内にも波及し、創業者側と新社長側に一族自体も分断する展開になりました。

本件の決着としては新社長側が経営権を握り、創業者側は会社から追い出される形となり、別会社を立ち上げることになりました。

それから数年後、会社を受け継いだ新社長側は業績悪化に伴い、大企業に吸収合併され、会社は消滅しました。一方で、創業者側の会社は売上額こそは縮小しましたが、着実に業績を積み重ね、現在は安定した経営を持続しています。

本事案で重要なポイントは事業承継時における経営変革の手法です。今回、新社長はこれまで創業者が築いてきたものを全面否定し、「革命的」な手法で経営変革を行おうとしました。事業の成功・失敗はもちろんですが、ここでは「革命的」な手法がもたらした社内紛争に着目します。

ファミリービジネスにおいて経営者はしばしば個人と会社は一心同体であると考えることは少なくありません。事実、事業用資産を個人で保有していることや資金調達のための個人保証などを鑑みれば一心同体という考えも間違えではないと言えるでしょう。

特に創業者にはこの傾向が強いと言われます。創業初期の苦しい状況や経営をしていれば必ず訪れる危機・修羅場を乗り越えている経験があることを考慮すれば、個人と会社は一心同体と考えられることは容易に想像がつきます。そうしてこれまで築き上げてきた経営方針を否定的に覆すということは自身の否定にもつながると感じてしまいます。

一方で、現状維持では企業はやがて衰退していきます。時代と共に社内外ともに環境は変化していきます。こうした変化に対応できない企業では発展できません。

それでは、ファミリービジネスにおいてはどのような対応が求められるのでしょうか。それはファミリービジネス固有の強みでもありますが、これまで築き上げてきた伝統の上に、市場が求めるイノベーションを加えることです。「革命的」な経営変革ではなく、一族事業の伝統を活かして「進化的」な経営変革が求められています。特に事業承継時には必要なことであり、後継世代がイノベーションを提案する際、先代からの承認をとるプロセスを前提とすることです。


成功事例:適切な所有と経営の分離

成功例として取り上げさせていただく企業は大手ゼネコンである清水建設です。

清水建設の成功ポイントは創業家と経営陣との関わり方にあります。清水建設は200年以上続く歴史ある会社で、創業家は現在も会社と寄り添い、経営陣との密接な対話を続けています。当社には対話を続ける仕組みが作られています。

1966年、6代目社長が急逝、7代目社長に初めて非一族から社長職に就任することになりました。このときには6代目社長の実子がまだ26歳であり若すぎるということで非一族からの社長が誕生しました。7代目社長は就任時に「清水家当主を先頭にして有能な社員がこれを補佐し、協力して永年の伝統の利点を生かすのが、当社にとって営業上最も有利である」と発言されています。これが今の清水建設の原型となっていると考えられています。

2022年現在、当社の取締役には清水家一族を代表して清水宗家当主が就任しており、経営陣と長期的な視野に基づき経営及び業務執行を監督する立場にあります。清水家一族は経営に直接関与するわけではありませんが、安定大口株主として会社と長期的な目線で共に歩む仕組みが作られています。こうして長年清水一族と清水建設は築き上げてきたものを次世代においても引き継いでいこうと取り組まれています。


今回示したファミリービジネスが抱える事業承継の課題はあくまで一部です。ファミリービジネスには特有の課題は複数あり、それらを捉えて、対策し、課題解決のプロセスを仕組化していくことが必要になります。


【参考資料】

ファミリーオフィスについて

下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!


  資料ダウンロード_お役立ち資料 永続化するためには、どのような事項を検討すればよいか知りたい方。 一族や一族事業の永続化、またはファミリーオフィスについて知りたい方。 ファミリーオフィス設立を検討されている方向けの資料です。 株式会社青山ファミリーオフィスサービス



米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

人気記事ランキング

カテゴリ一覧

タグ一覧