事業承継で求められる経営革新

世界にはファミリービジネスとして何世代にも渡り承継され、成功している企業があります。しかし、こうしたことは自然にできることではありません。

一族事業の永続化に成功している企業の特徴の一つとして一族内外の環境変化において高い適応能力を有していることが挙げられます。一族事業が多世代にわたって内外の環境変化にタイムリーに、且つ一貫して対応するには、ある種の明確な論理が必要です。今回はファミリービジネスの事業承継と環境変化が求める経営革新の双方を組み合わせた視点でその永続化の要諦を総合的な視点で考えていきます。

【参考資料】

ファミリーオフィスについて

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目次[非表示]

  1. 1.求められる伝統とイノベーションの融合
  2. 2.忘れてはいけない前世代への配慮
  3. 3.世代交代の試練



求められる伝統とイノベーションの融合

そもそも多世代にわたって事業を継続していく企業は「事業の成長」を念頭に、経営を進めていかなければなりません。世代を経るごとに事業環境も当然に変わり、また一族の状況も変わっていきます。単に現状維持を目標に企業経営をしているだけでは、内外の環境変化に適切には対応できず、一族事業も衰退していきます。

一族事業の持続的成長にはどのような方法があるでしょうか。成功例を参考にすると、これまで築いてきた伝統に基づく一族事業固有の強みに、新たな経営環境が求めるイノベーションを次世代経営者が追加していくという一連の経営革新のプロセスが見えてきます。冒頭で述べたある種の明確な論理とは実はこのことを指しているのです。

ファミリービジネスの場合、創業者の考え方や企業運営のプロセスを後継世代は環境変化に対応し経営変革を行うには、伝統という既存の事業モデルに市場が求める新たなイノベーションを加え、『進化的』な考え方に基づいて経営変革を推進していくことが原則になります。これとは対照的な考え方は、先代までの考え方や経営プロセスを全面的に否定し、『革命的』に事業変革を進める手法です。

ファミリービジネスの生存率が激減するといわれている創業から3代目以降においても一族事業が進化し続けるには、一族事業の伝統と市場が求めるイノベーションのたゆまない融合に向けて一族が一体となって努力することが求められています。特に後継世代がイノベーションを提案するにあたっても引退世代を含めた一族全体からのコンセンサスをとっていくということも大事になるということにも留意が必要です。


忘れてはいけない前世代への配慮

ファミリービジネスでは、過去とのつながりが尊重されなければなりません。伝統を重んじるという企業運営特性があるので、ファミリービジネスは事業内部を深く探索し、既存の知識と市場が今求める新たな知識を組み合わせることを本来得意としています。次世代リーダーは、これまで築いてきた一族事業の伝統に支えられた実績に敬意を払いつつ、謙虚さを忘れることのないリーダーシップの精神に基づいて、自らのビジネスモデルが永続化できるよう磨き続ける必要があります。周囲への謙虚さを欠くリーダーシップスタイルや自分の能力を性急に証明しようとする私欲の実現だけを動機としたリーダーシップでは一族事業の永続化のミッションは決して実現しません。ファミリービジネスの経営変革は、前世代の積み上げた伝統へ適切な配慮をしたうえ、そのプロセスは、あくまでも漸進的な成長をもたらす進化的経営変革が望ましいのです。


世代交代の試練

こうした一族の永続化を実現する進化的経営変革が実現できるか否かは、世代交代が正しくなされるかにかかっています。

それでは正しい世代交代には何が求められるのでしょうか。今度は失敗例から正しい在り方を学んでみましょう。ファミリービジネスの事業承継に失敗したときのコメントに「失敗の原因は後継者が先代が大切にしていたリーダーシップの在り方に欠けていた」というものがよくあります。しかし、後継者のリーダーシップが不十分であることは、経営上の問題の氷山の一角にすぎないかもしれません。失敗の真の原因を理解するには、一族内部の人間関係へとより深く問題を掘り下げていく必要があります。

事実、事業承継の失敗の本当の原因は、世代交代時期に一族や一族事業内での人間力学のバランスが崩れ不安定になることに関係者が十分な配慮をしないことにあると学術研究者は指摘しています(後述のシュワス教授)。

創業者によってつくられ、長年維持されてできた企業文化や事業戦略が時の経過と共に硬直性をもたらし、経営変革の方向に関して引退する創業者と次世代リーダーの親子間の対立を生み、経営を担う一族大株主と経営に携わることのない少数一族株主の利害対立などがそれまで押し込められてきた一族や一族事業に関する問題が事業承継のタイミングで一気に噴出するのです。

それ故、事業承継のタイミングではIMDのシュワス名誉教授が「ファミリービジネス 賢明なる成長への条件」(中央経済社)で述べる通り、ファミリービジネスの固有の試練として経営・株主・一族・個人の4つの次元で利害関係者との利益衡量する世代交代に於けるプロセスマネジメントが必要になります。互いにどのような影響を与え合い、時間の経過とともにそうした関係者の人間力学が持つ影響力がどのように変化していくのかよく認識し事業承継に向かって正しく行動することが求められます。

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米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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