catch-img

ファミリービジネスにおける企業理念

企業理念は、どの様な企業においても、企業活動の源泉で、企業のアイデンティティとなる不可欠な要素です。ファミリービジネスにおいては、所有者たる一族が経営理念に深く携わる構造となっています。

今回はファミリービジネスにおける経営理念の特徴を通じて、ファミリービジネスの企業理念がより効力を発揮するために求められている一族の役割をご説明いたします。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスの企業理念
  2. 2.ファミリーガバナンスの重要性


ファミリービジネスの企業理念

その企業がファミリービジネスであるか否かによって、企業理念に違いが生じることはありません。しかし、ファミリービジネスの場合、企業理念を創った一族が株主としての役割も果たすため、一族事業の価値観を十分に理解した株主の存在は、1つ1つの企業活動が企業理念に則ったものであるかを精緻に判断できます

また、どの様な社会課題を解決するために事業を興したのか、事業を通じてどの様な社会貢献を果たしたいのか、創業者の想いは経営上だけでなく、創業者の日常生活に少なからず表れています。反対に、日常生活の何気ない出来事や習慣が企業理念のきっかけとなる場合もあります。それ故、創業者を間近で見てきた創業家一族のメンバーは、事業への関与度合いに関係なく、一族事業の経営理念を潜在的に把握することができます。

このような特性を持つファミリービジネスは、所有者たる一族の一族事業への理解度次第で、事業の成長性を大きく左右するのです。一族事業が持続的な成長力を有するには、創業者の企業理念をはじめとする一族の先代までが重宝してきた価値観に、当世代の一族が共感し、一体性を持つ一族として一族事業を支えることが重要です。


ファミリーガバナンスの重要性

ファミリービジネスの所有者である一族に上記のような一体性をもたらすには、一族内における高水準の統治体制、すなわち、ファミリーガバナンスの整備が必要です。一族の株主間で価値観が合わず、お互いを理解することができていない状態では、一族事業の企業理念に対する考え方にも差を生む可能性があります。そうした一族は、一族全体の価値が反映されていない個人的及び短期的な利得に偏重した意見を主張し、一族及び一族事業の永続化には全く寄与しない不本意な衝突を招く要因となります。ファミリービジネスの象徴とも言える一族が足並みを揃えられないことは、ファミリービジネスの大きな経営リスクとなるのです。

一方、一族の1人だけが一族事業の株主で、その人物が経営執行責任を担っている場合や、一族の中で圧倒的な発言力を持つメンバーがいる場合には、大半の意思決定を独断でも可能なため、上記のような経営リスクは生じないと考えられます。しかし、経営の暴走や私物化などの新たな経営リスクが懸念されるとともに、こうしたカリスマオーナーが引退すると、後を継いだ一族メンバーが同様の体制を維持することは、一族及び非一族の経営陣から反発を受けるケースも多く、極めて難しくなると言えます。その結果、一族事業の中核概念である企業理念も形骸化し、一族と一族事業は求心力を大きく失いやすくなります。

ファミリービジネスを所有する一族は、一族事業への関与度合いに拘らず、一族と一族事業に関心を持ち、支え合うことが肝要です。こうした精神を一族のメンバーが持ち続けるためにファミリーガバナンスの整備が有効となるのです。

ファミリーガバナンスの目的は、未来の一族株主に一族の有形・無形の資産を遺せるように世代の垣根を超えた強固な一族の絆を構築することにあります。同じ一族であっても、一族事業への関与度合いや生活環境などにより、個々人が持つ価値観は様々です。それ故、個人の価値観を尊重しつつ、一族の価値観にも共感してもらい、ファミリービジネスを所有する一族としての立ち振る舞いを自然と身に付けられるように、継続的な一族間の双方向のコミュニケーションが求められています。こうしたコミュニケーションの場では、一族のメンバーがお互いの価値観や境遇を知ることに加え、世代を超えた交流の場ともなります。日常的にコミュニケーションが取れない一族メンバーとの定期的なやり取りを意図的に設けることが強固なファミリーガバナンスの構築に大きく役立ちます。このような取組みを持続的に行うことが、価値観の異なる一族メンバーを、1つの価値観を基軸とした単体の一族集団として纏め上げる源泉となります。

ファミリーガバナンスの詳細については、別記事「ファミリーガバナンスとは」も併せてお読みください。

  ファミリーガバナンスとは 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


ファミリービジネスを所有する一族にとって、安定大株主たる一族の一体性がファミリービジネスの経営理念により高い価値を与えます。一族事業内外のステークホルダーに企業理念を浸透させることや、企業理念に整合した企業活動を淀みなく実践することなどが挙げられ、一族が果たす役割は非常に重要です。このような一族の存在が、中長期の企業価値向上を目標とした企業活動の実行を一族事業に促し、一族とファミリービジネスの永続化を果たす仕組みを創り上げることができるのです。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等