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ファミリービジネス(同族経営)の事業承継の在り方

ファミリービジネスにおいて、事業承継は重要なイベントの1つであり、その成否がファミリービジネスの存続を左右します。今回は、ファミリービジネスの事業承継にあたって、従来の事業承継では無視されがちであった、競争力分析と無形資産に焦点を当てて、ご説明いたします。

目次[非表示]

  1. 1.ファミリービジネスの事業承継の在り方
  2. 2.ファミリービジネスの競争力分析
  3. 3.ファミリービジネスの文脈における無形資産
    1. 3.1.無形資産の特徴
    2. 3.2.無形資産の承継


ファミリービジネスの事業承継の在り方

ファミリービジネスの事業承継は、株式の承継や組織体制の整備などを行い、金融資産や不動産をはじめとする有形資産の承継に着目されてきたように思えます。相続税の支払いは一族の流動資産の減少に直結するため、確実な支払原資の確保が重要です。しかし、相続税の支払いは事業承継の一部に過ぎず、後継者育成や経営理念の浸透など事業承継に備えて実施すべき取組みは多岐に渡ります。

事業承継において最も重要なことは、事業承継の目的が一族及びファミリービジネスに持続的な成長を、世代を超えて確実に成し遂げるという営みの過程だとその本源的な目的を理解し、関係者が力を合わせることです。


ファミリービジネスの競争力分析

ファミリービジネスが市場でどの程度の競争力を有するのか客観的に把握することは事業承継の大前提です。しかし、従来の事業承継支援では顧客の目に見えやすく、短期的に一族の資金繰りに直結する税金問題に矮小化されてしまい、経営視点で事業の持続的成長の潜在力を見極める上で不可欠な競争力分析を怠るケースがまま見られます

加えて、昨今のコーポレートガバナンス改革により中長期の視点での企業価値の持続的向上への圧力が高まっていることから、市場での競争を通じ、非上場のファミリービジネスにもその影響が徐々に及んでいます。具体的には、これまでファミリービジネスの強みとされてきた中長期の視点での経営戦略に取組むというファミリービジネス固有の強みは、もはや全ての上場企業が優先順位の高い目標となった以上、その相対的優位性に揺らぎが生じ、非上場ファミリービジネス固有のビジネスガバナンスの在り方が改めて問われています。

企業の競争力分析に利用可能な財務指標は様々あるものの、とりわけ競合との比較でみた相対的マーケットシェアと粗利率の変化が重要だと私共は考えています。具体的には、売上高成長率や売上高総利益率(粗利率)の推移を競合他社及び業界平均値と比較することで、競争力の優劣の大まかな方向性を把握することができます。こうした方向性をより正確に把握するため、対市場でみた主要製品の販売単価下落率や顧客サーベイを通じ消えた顧客の声を拾う必要があります。

また、上場企業であれば株価時価総額の推移を、非上場企業であればM&Aで用いられるEBITDAをベースとする株価評価の手法で株主価値の推移を、一定の推定のもとに競合他社(及び市場平均)の数値の推移と比較分析することは有効です。

後継者が自社市場の競争力分析に主体的に取組み、継ぐに値する企業か、また、経営改革のポイントはどこか、予め評価することで経営承継への覚悟を固め、一族株主や非一族の経営幹部といった経営変革に利害を持つ関係者の事前同意も取れば、経営承継後、経営革新に素早く着手することができます。

ファミリービジネスの事業承継は引退する世代が健康ならば通常70歳以降となり、市場が求める最適状態からはビジネスモデルが大きく乖離する可能性は高くなります。高齢になっても学び続ける精神力を維持し、過去の成功体験を否定しても、自ら変革を継続できる克己心を持ち続ける高齢者は少ないからです。それ故、事業承継直後こそ、本来は迅速な経営変革が求められているのです。その際、経営を支える一族も全社員も競争戦略上の経営課題を共有していれば、企業が心を1つに経営変革を加速化して進めることができるのです。



ファミリービジネスの文脈における無形資産

無形資産の特徴

一族とファミリービジネスの永続化は有形資産の承継だけでは実現しません。相続の視点からいくら効率的に有形資産を後継世代に遺しても、後継世代の関与の在り方次第で有形資産を大きく毀損する恐れがあるからです。こうした危機を回避するには一族の持つ無形資産の整備が必要となります。ここでいうファミリービジネスの永続化に資する無形資産は下記3つに分類できます。

①      一族の個々のメンバーが持つ、知識・経験・人脈

②      一族の理念を共有する一族株主同士の無形資産が醸成する相乗効果

③      一族として社会から得ている信頼・評判、及びその結果得られる特別な社会的・経済的地位(私共はこれをファミリービジネスの文脈での社会関係資本と呼んでいます)


無形資産は目に見えないため模倣されにくく、一族事業の持続的競争力の源泉となります。つまり、無形資産は一族の富を創造するための主体である一方、有形資産は一族の富を創造するための客体だと表現できます。

また、無形資産は金銭評価が困難なため、相続税法上の課税も民法上の財産分割もなく、むしろ一族が適切に培い育めば、世代を経るごとに増大する特性を有しています。

無形資産の特徴に関しては、別記事「ファミリーオフィスの対象となる資産:無形資産編」に詳述しておりますので、併せてこちらもお読みいただけると、理解がより深まると思います。

  ファミリーオフィスの対象となる資産:無形資産編 株式会社青山ファミリーオフィスサービス


無形資産の承継

こうした無形資産は、上述のように類型化できるものの、その内容や効果は一族により千差万別であるため、個別対応が原則となります。つまり、後継世代に承継するか否か、あるいはどの程度承継するのかは当世代固有の考え方に依存します。集団として一貫した仕組みを大切にしない限り、多くの一族はこうした無形資産の重要性を学ぶ機会すらありません。それ故、積極的に無形資産の承継に取組む一族はごく僅かであると考えられます。

無形資産を次世代に確実に承継するには、一族と一族事業を包括的に支援する取組みを意図的に創ることが求められています。例えば、家族憲章による理念の共有と一族会議体を通じた一族への浸透が必要です。こうした仕組みを動かし、一族の一体性を強め、財務のみならず非財務の面からも企画・運営し、一族を支援するのがファミリーオフィスです。

ファミリーオフィスは昨今、資産運用を担う富裕層向けの組織と認識されがちであるものの、本来、一族の価値観や活動の共有、子弟の教育方針策定、社会貢献活動の実行など無形資産も含めた幅広い機能を携えています。一族は各種の外部専門家を加えた適切なチームで、実態に即したファミリーオフィスの活用が必要です。

家族憲章、一族会議体、ファミリーオフィスの具体的な役割や仕組みは別記事に記載していますので、ご興味がある記事も併せてお読みください。


一族メンバーの入れ替わりは一族の絆が希薄化する契機になり得るため、基底となる一族の持つ無形資産の確実な承継が鍵となります。一族と一族事業を支える意思を持つ一族メンバーが一枚岩となって、事業承継を乗り超えていくことが求められています。

米田 隆(監修)
米田 隆(監修)

早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等