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経済産業省ガイダンスから読み解くファミリーガバナンスの5つの重要ポイント

経済産業省が2026年6月に策定した「ファミリーガバナンス・ガイダンス」は、ファミリービジネスの持続的成長を支える重要な指針として注目されています。

ガイダンスでは、ファミリーガバナンスについて主に以下の論点が整理されています。

  • 理念・価値観の明文化
  • ファミリー内の意思決定の仕組み
  • ファミリーの経営への関与方針
  • 事業承継・株式承継の在り方
  • ステークホルダーへの情報発信
     

本記事では、本ガイダンスの内容を踏まえつつ、実務上重要となるファミリーガバナンスのポイントについて整理します。

まずは「ファミリーガバナンス・ガイダンス」がどのような背景で策定されたのか確認していきたいと思います。

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なお当社は、本ガイダンスの策定にあたり、「ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会※」に委員として参加しております。

これまで、ファミリービジネスの持続的成長に向け、ファミリーガバナンスの構築および運用を軸とした「非財産」分野のコンサルティングサービスを提供してきた実績と実務的な知見を踏まえ、本研究会の議論に参画しております。
※『ファミリービジネスのガバナンスの在り方に関する研究会 委員名簿(経産省)

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【参考資料】

ファミリーオフィスについて
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目次[非表示]

  1. 1.「ファミリーガバナンス・ガイダンス」策定の背景
  2. 2.ファミリーガバナンスの基本概要
  3. 3.ガイダンスを踏まえたファミリーガバナンスの主な論点
    1. 3.1.ガイダンスが示す『理念・価値観』の明文化
    2. 3.2.ガイダンスが示す『意思決定の仕組み』
    3. 3.3.ガイダンスが示す『ファミリーの関与方針』
    4. 3.4.ガイダンスが示す『事業承継・株式承継』
    5. 3.5.ガイダンスが示す『ステークホルダーへの情報発信』
  4. 4.まとめ

「ファミリーガバナンス・ガイダンス」策定の背景

経済産業省が「ファミリーガバナンス・ガイダンス」を策定した背景には、ファミリービジネスが日本経済において大きな役割を担っているという認識があります。ガイダンスでは、日本企業の9割以上がファミリービジネスであるとされ、国内外での事業・投資の拡大、地域における雇用の創出、地域経済への貢献などを通じて、日本経済を支える重要な存在であると述べられています。

また、ガイダンスでは、ファミリービジネスの強みとして、長期的な視点で経営できること、迅速な意思決定が可能であること、地域経済を牽引する役割を果たしていること、地域社会への貢献を行っていることが挙げられています。

同時にガイダンスでは、ファミリービジネスは一部のメディアで、いわゆる「お家騒動」といった稀な負の事例に注目した報道がなされた結果、社会からネガティブなイメージを持たれることもあったと述べられています。

これらの点を踏まえると、経済産業省のガイダンスには、ファミリービジネスが日本経済・地域経済を支える重要な主体であることを前提に、その強みや社会的役割に対する正当な評価を取り戻そうとする姿勢があると考えられます。

つまりこのガイダンスは、ファミリービジネスを問題視するためのものではなく、その強みを活かしながら、ステークホルダーとの持続的な成長と社会的評価の向上を後押しするものです。

ファミリーガバナンスの基本概要

ガイダンスにおける「ファミリーガバナンス」は、ファミリー内での協働に加え、ファミリーと株主・従業員等との協働を通じて、事業の継続・承継と持続的成長を実現する仕組みと整理されています。

これを言い換えると、ファミリーガバナンスとは「会社と家族が長く良い関係を保つための仕組み」と言えます。

会社には、取締役会や株主総会といった意思決定の仕組みや就業規則などのルールがあります。一方で、創業家やオーナー一族の間には、「誰が会社に入るのか」「誰が株式を持つのか」「後継者をどう決めるのか」といった家族特有の問題があります。

これらを明確な基準やルールを設けずに運用していると、相続や事業承継のタイミングで対立が起こりやすくなります。そのため、家族の間でもあらかじめルールを作り、話し合いの場を設けておくことが重要になります。

以下では、それぞれの論点について整理します。

ガイダンスを踏まえたファミリーガバナンスの主な論点

【ガイダンスが示すファミリーガバナンスの5つの論点】

  • 理念・価値観の明文化
  • ファミリー内の意思決定の仕組み
  • ファミリーの経営への関与方針
  • 事業承継・株式承継の在り方
  • ステークホルダーへの情報発信

ガイダンスが示す『理念・価値観』の明文化

ガイダンスでは、ファミリーの理念・価値観・ビジョンは、ファミリービジネスの企業文化や経営方針に強い影響を与え、関係者が同じ方向を向くための「羅針盤」になると述べられています。

また、これらを明確にし、文書化したうえで共有することが推奨されています。

すでに経営理念を定めている会社は少なくありません。しかし、その経営理念が経営者や従業員には共有されていても、ファミリー全体には十分に共有されていないケースもあります。

特にファミリービジネスでは、会社の経営には直接関わっていないものの、株主として、あるいは家族として、会社やファミリーの将来に大きな影響を持つ重要な関係者が存在します。

そのため、ファミリーガバナンスでは経営に関わっている人だけでなく、経営に関わっていないファミリーメンバーとも、ファミリーとして大切にする理念や価値観を共有しておくことが重要になります。

これにより、円滑な経営、経営承継、株式承継に加え、社会貢献活動や次世代教育などファミリーとして行うその他の活動についても、共通の方向性を持ちやすくなります。

当社では、このようにファミリー内で共有される理念を「一族理念」と捉えています。一族理念は、単なる家訓やスローガンではなく、経営理念を包含し、ファミリー、会社、株主、次世代をつなぐ重要な概念であると考えています。

ガイダンスが示す『意思決定の仕組み』

ガイダンスでは事業の成長に伴って家族・所有・経営の関係が複雑になるため、ファミリー内のルールを策定し、意思決定の場を持つことが推奨されています。

また、意思決定のプロセスや、意見が対立した場合の最終判断者を明確にしておくことで、感情的な対立を避けることができると述べられています。一族の人数が増え価値観も多様化するファミリービジネスでは、こうした話し合いのルールを事前に決めておくことは重要です。

ただし、ルールは作るだけでは十分ではありません。ファミリーでは感情的な対立が起こりやすく、冷静な議論が難しくなることがあります。

加えて、株式、相続、税務、経営戦略などは専門知識を要するため、家族だけで円滑に議論するのが難しい場合もあります。さらに、話し合いの場そのものが忙しさの中で後回しになることもあります。

だからこそ、現実に運用できるルールを設計することが重要です。

したがって、ファミリーガバナンスでは「ルールを作ること」と「実際に運用できること」のバランスが重要です。

当社では、その実現において中立的な第三者が意思決定の場の運営に関与する意義があると考えています。第三者が関与することで議論が整理され、必要な専門知識が補われるとともに、会議体としての公式性も高まります。その結果、ファミリー内の話し合いは一時的・感情的なものにとどまらず、継続的に運用される仕組みとして機能しやすくなります。

ガイダンスが示す『ファミリーの関与方針』

ガイダンスではファミリーが経営にどこまで関与し、どこから関与しないのか、その範囲と役割を明確に定めることが重要であると述べられています。

特に、ファミリーメンバーの入社、退社、役員就任について、客観的な基準やプロセスを設けることが重要とされています。

ファミリービジネスのパフォーマンスは、ファミリーの関与の巧拙に左右されると言われています。ファミリーが経営の細部にまで常に関与し過ぎると、現場の自律性や専門経営者の判断を妨げるおそれがあります。

一方で、ファミリーの関与が薄すぎると、創業家として大切にしてきた理念や価値観が経営に反映されにくくなり、ファミリービジネス本来の強みが失われる可能性があります。

したがって、ファミリーガバナンスではファミリーがどの場面で、どの程度、どのような立場で関与するのかという「適度な関与」を設計することが重要になります。

特に近年増加しており、今後も増加が見込まれる「所有と経営が分離した企業」では、ファミリーの株主としての関わり方が一層重要になります。

創業家が経営を非一族の経営者に委ねた後、ファミリー株主として経営を適切に監督する仕組みを持たないままでいると、会社内部の情報を十分に把握できなくなり、経営方針への関与も難しくなる場合があります。

そのような状態になると、大株主である創業ファミリーの理念に基づいた長期的な経営、地域社会や従業員との信頼関係を重視する経営といった、ファミリービジネスが本来持つ良さが失われてしまうおそれがあります。

当社では、所有と経営が分離する局面においてこそ、特にファミリーが株主としてどのように情報を受け取り、経営者と対話し、必要な監督を行うのかをあらかじめ設計しておくことが重要であると考えています。

ガイダンスが示す『事業承継・株式承継』

ガイダンスでは、ファミリー内で所有と経営の両方を承継するのか、経営をファミリー以外の人材に任せるのか、所有だけを維持するのか、上場を目指すのか、非上場を維持するのかといった承継方針を策定しておくことが推奨されています。

また、事業承継の遅れや不確実性はファミリービジネスの成長を阻害する大きな要因になると述べられています。

これまで事業承継支援は株式をどう承継するかという手法に偏りがちでした。しかし本来は、その前提として、望ましい株主構成や株主の役割・責任についてファミリーで合意しておくことが重要です。

しかも、その合意は一度作れば終わりではありません。相続、結婚、世代交代、事業環境の変化に応じて継続的に見直す必要があります。こうした継続的な対話を支える仕組みとして、ファミリーガバナンスが重要になります。

このように、ファミリー全体で承継の全体像を描き、ファミリー内で合意する従来の取り組みは、これまで十分とは言えませんでした。その結果、事業承継の遅れや、後継者・株主構成をめぐる不確実性につながっていた面があると考えられます。

当社では、ファミリーが事前に合意した枠組みの中で、将来の経営、所有、株式承継について議論し、合意を形成していくことが重要であると考えています。こうした取り組みにより、事業承継の遅れや不確実性を減らし、会社とファミリーの双方にとって納得感のある承継を実現しやすくなります。

ガイダンスが示す『ステークホルダーへの情報発信』

ガイダンスでは、株主をはじめ、従業員、取引先、地域社会等のステークホルダーとの良好な関係を築くことが、ファミリービジネスの持続的成長の基盤となると述べています。

そのためにはステークホルダーへの情報発信を行い、ファミリービジネスの取組を積極的に発信していくとともに、対話を通じた理解・共感を醸成することが重要であると記されています。

非上場企業では情報開示に関する明確なルールがないため、経営情報が十分に共有されにくい傾向があります。その結果、株主や従業員への説明や、地域への取組の発信が限定的となるケースも見られます。

こうした状況を踏まえてガイダンスでは、例えば株主への経営状況の説明や地域貢献活動の発信などを通じて、ステークホルダーへの情報開示を積極的に行うことの重要性を指摘しています。

企業の透明性を高めるとともに、ファミリービジネスの強みへの理解を促し、信頼関係の構築を通じて持続的成長につなげていくことが求められています。

当社では、ファミリービジネスの経営に関与していない一族株主も含めて、一族が株式を保有する意義を理解していることが重要な要素と捉えています。

そのために、株主への経営情報の開示に加えて、保有する株式に対する価値観や考え方を共有する機会提供も支援しております。

まとめ

本ガイダンスでは、ファミリー内での協働に加え、ファミリーと株主・従業員等との協働を通じて、事業の継続・承継と持続的成長を実現する仕組みをファミリーガバナンスと位置付けています。

ファミリービジネスは長期的視点、迅速な意思決定、地域社会への貢献といった強みを持つ一方で、親族間対立、後継者問題、株式分散などのリスクも抱えていると整理されています。

また、「お家騒動」といった稀な負の事例だけでファミリービジネスを捉えるのではなく、その社会的価値を正当に評価し、持続的成長につなげることが重要であるという問題意識が示されています。

以上を踏まえると、ファミリーガバナンスは、会社と家族、そして従業員、取引先、地域社会とのより一層の協調を促す仕組みであり、理念、意思決定ルール、後継者育成、株式承継方針を早い段階から整理することが、ファミリービジネスの持続的成長と円滑な事業承継につながります。

なお、本ガイダンスは方向性を示すものであり、具体的な制度設計や運用は各ファミリービジネスの状況に応じた検討が求められます。

実務においては、個別の事情に応じた専門的な整理が必要となるケースも少なくないため、専門家へ相談しながら進めていくことも有効です。

【参考資料】​​​​​​​

ファミリーオフィスについて
下記ダウンロード資料もお使いいただけると、より実感を持って考えることができます!


米田 隆(監修)
米田 隆(監修)
早稲田大学商学学術院 ビジネス・ファイナンス研究センター 上級研究員(研究院教授) 公益社団法人日本証券アナリスト協会プライベートバンキング 教育委員会委員長 株式会社青山ファミリーオフィスサービス取締役 早稲田大学法学部卒業。日本興業銀行の行費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業、国際金融法務で修士号取得。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。著書に『世界のプライベート・バンキング「入門」』(ファーストプレス)、訳書に『ファミリービジネス 賢明なる成長への条件』(中央経済社) 等

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